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 國彦が慌ただしく出掛けて行った後の居間。へらへらと締まりのない表情で、慶吾はたまおに後ろから抱きついていた。

「やばい、どうしよう」

 そう言ってまたにやける。

 國彦は出掛けぎわ、玄関まで見送りに来た慶吾に「たまおを頼むよ」と耳打ちした。それから徐に恋人を抱き寄せ、「戻ってきてくれてよかった」と囁いたのである。
 真っ赤になって反応できずにいる慶吾に「好きだよ」とキスまでして、國彦は颯爽と出掛けていった。


「好き、なんてめったに言ってくれないのに……」

 慶吾は頬を染めて悶絶した。

「嬉しいよぅ、たまおちゃん」
「ん」

 慶吾が密着しているせいで窮屈な尻尾が「よかったね」とばかりに小さく揺れた。

「早く帰ってこないかなぁ、國彦さん」

 今出掛けたばかりである。腹に回された慶吾の腕を、たまおはぱしぱしと叩いた。



「1週間くらい前かららしいです。あの人が大学でたまおちゃんのこと聞き回ってるの」

 2限目の講義を終えて戻ってきた國彦にあかねは告げた。

「1週間ね……」

 おそらく、あかねが遭遇した若い男というのは、今朝慶吾たちが会った男によって雇われた人物ではないか。國彦は推測する。
 実のところ、たまおが口にした「都築」という名前には心当たりがあった。慶吾の言う「インテリ臭」という表現が一層、その想像を強固なものにしていた。

 しかし、全てを暴くことがたまおにとってよい結果をもたらすとはどうしても思えない。できることなら過去など忘れて、國彦と慶吾のもとで静かに生活させてやりたかった。

(2010/05/10)


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