-36-
「國彦さんのこと好きだから、経済的には依存したくないの」
アパートの駐輪場で、たまおにヘルメットを被せながら慶吾が話す。
「対等がいい。それで、ずーっと一緒にいたい」 「ずーっと」 「うん、できれば一生。よし、後ろに乗って」
バイクを出して跨がり、たまおを促す。どうにかよじ登って後ろに腰掛けたのを確認してエンジンをかけた。
「ちゃんと掴まっててね」
初めてのバイクが怖いのか痛いほどしがみついてくるたまおを乗せ、慶吾は恋人の家を目指して朝の街を走った。たまおに気を遣いながらも走行は快調だ。 しかし、幹線道路を抜けて郊外の住宅地へ入ったところで突然目の前に現れた障害物に、慶吾は急ブレーキをかけた。慶吾たちのバイクを追い越していった1台の紺色のゴルフが、前方で斜めに停車して道を塞いだのである。
あわや衝突か、というところでバイクはどうにか止まった。ヘルメットを脱いで地面に降りた慶吾は、同じく車から降りてきた人物に向かって「危ねぇだろ!」と声を荒げる。 しかし、40代から50代と思しき男は慶吾を無視し、後ろでメットを取ったたまおを真っ直ぐに見た。
「やっぱり君だった。リュックに見覚えがあると思ったんだ」
近づいてくる男に、たまおは息を飲む。
「探してたよ。これは君のだろう」
男はスラックスのポケットから青い首輪を取り出した。 たまおの強ばった表情を見て、慶吾は彼を背後に庇う。
「たまおちゃんに何の用だよ」 「あの人のこと、君は何か知ってるんだろう。教えてくれ」
たまおはリュックを両腕でしっかりと抱き、掠れた声で「しらない」と呟く。男は尚もたまおに近づこうとした。
突然、慶吾が男の両の二の腕を掴み、勢いよく自分の方へ引いた。同時に膝を鋭く腹にめり込ませる。流れるような動作に男は抵抗する間もなく、呻き声とともに地面に蹲った。
「行こう」
エンジンのかかったままのバイクを慶吾は素早く反転させ、たまおが後ろに乗ったのを確かめるとアクセルを踏み込んだ。ミラーの中のゴルフが瞬く間に遠ざかる。 慶吾の服を握るたまおの手は、小さく震えていた。
_______________
*昨日は更新できずすみませんでした。何故かすっかり忘れてました(汗) やっとお話が動きます。今月中には完結させられそう。
(2010/05/07)
新 | 古
|