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翌日は授業のない土曜日だったので國彦は家で仕事をすることにして、時折たまおを構ってやった。 あかねに伝授されたぬいぐるみ遊びをする間もたまおはどこか上の空だったのだが、その晩、布団で國彦とキスをしながらようやく口を開いた。
「けーごむかえにいく」 「迎え?」 「けーごのとこ連れてって」
決然とした響きだった。
「……慶吾はここに戻りたがらないかも知れないよ」
國彦の言葉にたまおは黙ってしまう。 「たまおちゃんが行けば嫌って言えないよ」というあかねのアドバイスを受けての提案だったが、俄に自信を失くしたように両耳がぺたりと倒れてしまった。
「たまお」
國彦が慌てて声を掛ける。しかし、たまおは國彦に強く唇を押し付けると、忘れてくれとばかりに反対側へ寝返りを打ち、おおくまさんをきつく抱いて丸まってしまった。
そんなたまおを背後から抱き、首筋に唇を這わせながら、國彦は悩む。 たまおに戻ってきてほしいと請われれば、慶吾は無下にはできないだろう。しかし、たまおを利用して連れ戻して、自分はまた慶吾を縛るのか。そんなことが許されるのか。甘やかされ、自立して生きる力を奪われることを嫌って、慶吾は出ていったのではなかったか。
不安な空気が伝わってしまったのか、たまおはぬいぐるみが歪むほど腕に力を込めた。
「たまお……こっちを向いて」
弱々しい声で請われ、たまおは素直に國彦に向き直った。國彦の腕がたまおを抱き寄せる。 そのまま、何もかもを忘れようとするかのように激しくキスをし、身体を触り合い、ふたりは気絶するように眠りに落ちた。
(2010/05/03)
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