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 狭い研究室中を駆け回って暫く夢中で遊んでから、たまおとあかねは元のソファで休憩していた。

「ほんとにワンちゃんと遊んでるみたい」

 ニット帽を脱いだたまおの乱れた髪を指ですきながらあかねは笑う。汗ばんだ額もコロンの香るハンカチで拭ってやった。

「たまお、いぬだから」
「あは、そんなこと言っちゃだめだよぉ。喋れるんだからとりあえず人権を主張してみましょ」

 たまおは難しい顔をした。

「そろそろお昼だね。たまおちゃん、お腹空かない?」
「たまおお弁当ある」

 そう言って、たまおは國彦のデスクから味もそっけもない茶色の紙袋を持ってくると、そこからこれも色気のないただのタッパーウェアとアルミ箔に包んだお握りを取り出した。プラスチックのフォークも添えてある。
 しかし地味なタッパーを開けると、そこにはやけに気合いの入った色とりどりのおかずが詰まっていた。すごーい、とあかねが感嘆の声を上げる。

「大槻センセが作ってくれたの?」
「くにひこがつくった」
「美味しそう。あたしは今日サンドイッチなんだよ」

 あかねは原色の花模様のプリントされた小さな手提げからオレンジ色のサンドイッチボックスと保温マグを取り出した。

「紅茶、分けてあげるね」

 國彦の棚からカップをひとつ拝借し、湯気の立つ紅茶を注いでたまおの前に置く。
 優しい黄色の卵焼きにフォークを突き刺そうとしていたたまおが「あ」と動きを止めた。手を合わせ、神妙な顔で「いただきます」を言う。國彦の躾の賜物だった。

「えらいね、たまおちゃん」

 ウェットティッシュで手を拭いたあかねも、食前の挨拶をしてから自分の昼食に手を伸ばす。

 甘い卵焼きを頬張りながら、たまおはあかねのサンドイッチボックスを覗き込んだ。

「ふふー、気になる? ひとつあげるよ」

 たまおは綺麗に並んだサンドイッチの中から、ママレードを挟んだものを指差した。

「甘いのがいいんだ〜。じゃ、最後に食べようね」

 蓋の上に取り分け、たまおへ差し出す。たまおも自分の弁当の中からお気に入りの南瓜の茶巾絞りを蓋に取ると、あかねに渡した。

「いいの?」

 淡いピンク色の蕪の梅酢漬けをしゃくしゃくと噛み砕きながら、たまおは鷹揚に頷く。
 あかねが可愛らしい茶巾絞りを行儀悪く指先でつまんで口に入れたところへ、國彦が戻ってきた。
 仲良く並んで弁当を食べるふたりに目を細める。

「お疲れさまです。お昼、お先に頂いてましたぁ」
「ありがとう、藤倉さん。お、今日は食欲あるな」

 大分中身の減ったたまおの弁当箱を見て國彦は微笑む。

「いっぱい遊んだからかな? せんせぇお料理上手なんですね〜」
「凝り性なんだ。藤倉さんもそれ、手作り?」
「そうですよぉ」
「その爪で料理を……?」
「保護用の手袋するんです」

 他愛ない会話をしつつ、國彦も向かいのソファに腰掛けて自分の弁当を広げた。


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*食い物の描写に字数を割き過ぎて話が進まない…。

☆おまけ
たまおのお弁当
・みりん+醤油+酒+おろしにんにくのタレに漬け込んで焼いた鶏肉
・昨夜の残りの人参と牛蒡のマヨ和え
・卵焼き
・ミニトマト
・蕪の梅酢浅漬け
・南瓜の茶巾絞り
・お握り(梅干し)

書きたかったけど書ききれなかったので…

(2010/05/02)


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