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「まぁいいじゃないか、おじさんのプライベートなんて」 「えー。気になりますよぅ。どんな人なんですか、カレシさん」
國彦はどうでもよくなって一気に喋った。
「動物みたいな奴だよ、興奮するとすぐ噛むし引っ掻くし。たまおの方がよっぽど大人しい。背が高くて美しい身体つきをしてる。あなたと同い年だ」
「そんな若いひとなんですかぁ!? 何かやらしい〜」
あかねは至極楽しそうである。
「あぁやらしいよ、僕は」 もう自棄だ。
「何言ってんだお前」
呆れた声に國彦とあかねが振り向くと、入り口のところに世良が立っていた。
「今度は女子学生捕まえてセクハラか? 節操のない奴だな」 「濡れ衣だ。ノックぐらいしないか」 「したよ」 「聞こえなかった。無効だ。この間の件の続報か?」 「あぁ……」
世良はちらりとあかねを窺う。 外しましょうか、とあかねが気を利かせたのを、國彦は引き止めた。
「時間があるなら聞いていってください。――世良、彼女うちの院生なんだが、嫌がらせの件についてちょっと調べてくれたんだ」
國彦はあかねが伝えた情報をかいつまんで世良に話して聞かせた。
「アメフト部に教授の息子ねぇ……」
世良は髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回した。
「もうちょっと判ったことがあるんです。その息子さん、教授の跡を継ぐような感じで同じテーマの研究してるんです。お父さんをそりゃもう尊敬……ていうか、ほとんど崇拝してるみたいで」 「それで父上の捏造疑惑を暴こうとする奴らに嫌がらせってわけか? しかし何というか、それじゃあまりにも……」
考え込んでしまった世良に、「それで君、続報って?」と國彦が問い掛ける。
世良は思い出したように顔を青くした。
「ついにおれも狙われたんだ」
「狙われた?」
「うちの階の資料室の窓ガラスが割られた。中にでっかい石が落ちてたらしい」
世良は片手で野球のボールほどの大きさを表した。
「で、何でそれが『狙われた』ことになるんだ」 「資料室っていうのはおれの研究室の隣なんだよ。たぶんうちを狙って外したか、位置を間違えたんだ」
「どう思う、藤倉さん」 「うーん……ちなみにその資料室、反対側の隣は?」 「印刷室。そっちを狙う理由ないだろ」 「そうだな……」
國彦はしばし考える。
「藤倉さんの話、警察に言った方がいいかも知れないな。ひったくりまで同一犯かどうかはわからないが、投石だって下手したら怪我人が出る」 「しかし、その……」
世良はあかねを見た。 あかねの話は噂に過ぎず、物的な証拠はない。取り合ってもらえない可能性もあるし、犯人からの復讐の恐れだってある。
「世良せんせぇにお任せします。せんせぇが仰るなら、知ってる限りのことは警察の前でお話ししますよ」
「……少し考えさせてくれ。講義があるから戻るよ。邪魔したな」
あかねに選択を委ねられた世良は、複雑な表情で退室する。あかねに「気を付けてくださいねぇ」と言われてびくりと強張った後ろ姿を、國彦は気の毒そうに見送った。
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*昨日は更新お休みしちゃってすみません。 ところでお気づきでしょうか、1話の文字数がどんどん増えていることに…(笑)
(2010/04/26)
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