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 ケーキを食べながら慶吾がふと、「たまおちゃんの誕生日はいつかなぁ」と呟いた。

 フォークを手にしたままうつらうつらしていたたまおが顔を上げる。

「たんじょうび」
「うん」

 たまおは暫く思案してから、

「くにひこが」
「ん? おれ?」
「くにひこが名前つけてくれたひ、たまおのたんじょうびにしてもいい?」
そう訊ねた。

 國彦は胸を打たれて一瞬黙り込むが、やがて「そうだね。そうしよう」と微笑んでみせた。
 國彦たちもたまお自身もあまりにもその名前にすんなりと馴染んでしまっていたため、それがほんの2週間前に國彦が「便宜上」与えたものだということをすっかり失念していた。

 たまおは國彦と出会う以前のことを一切語らなかった。ここではたまおは過去を持たない。國彦と出会った日が彼の「誕生日」だというのは、なるほどその通りかも知れない。

「じゃあこれ」

 慶吾は無造作に放り出してあった大きな包みを取り上げ、たまおに放った。

「たまおちゃんにおれからプレゼント。貰いもんだけど」

 両腕で包みを抱き取ったたまおは目を丸くした。「開けてごらん」と慶吾に促されておずおずと包装を解く。
 現れたのは共布の、大小ふたつのテディベアだった。

「どうしたんだ、これ」
「女性のお客さんに貰った。誕生日プレゼントだって」
「高いんじゃないのか」
「パチンコの景品とか言ってたけど……」
「そうは見えないな」
「……やっぱり?」

 たまおの膝に抱えられた2体のテディベアはどちらも気品溢れる顔立ちで、質の良さそうな深い色合いのモヘアでできている。足の裏に縫い込まれたタグにはドイツ語らしき社名も入っていた。

 「わざわざ買ったのかよ、何かお返ししなきゃダメか?」と頭を抱える慶吾の横で、たまおはぬいぐるみの柔らかな胴をぎゅうと抱いた。表情はあまり変わらないものの、頬が僅かに紅潮している。

「たまお、良かったね」

 國彦の言葉にたまおは大きく頷いてから、「おおくまさん」と力強く言った。

「大隈さん?」
「おおきいほう」
「名前か。小さい方は?」
「こぐまさん」
「ひねりないな」

 慶吾が突っ込むが、たまおはただ満足そうに再び頷いた。


 翌朝、前夜の夜更かしが祟ったのか寝坊してしまったたまおは、目覚めるとひとり寝室に取り残されていた。おおくまさんと一緒に抱いて寝ていたはずのこぐまさんがいないのに気付き、必死の捜索の末、布団に紛れていたのを救出する。
 2体を大切に抱えて居間へ向かおうとしたとき、言い争うような声が聞こえて閉じた襖の前で立ち止まる。眠っているたまおに気を遣ってか圧し殺したような声は、しかしたまおがこれまで聞いたことのないような、棘を含んだものだった。

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*ほのぼのから一転。
うっかり0時過ぎちゃったんですが日付を改ざんさせて頂きました(笑)
明日もちゃんと更新!

(2010/04/22)


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