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「もう少し寝てな」
國彦の膝に顎をのせてうとうとしていたたまおが身動ぎして目を開けたので、頭を軽く撫でる。気持ちがいいのかたまおは耳を完全に寝かせ、再び目を閉じた。
ちゃぶ台の上にはつまみ程度の料理とグラス、プレゼントの小さな包み。ケーキとシャンパンは冷蔵庫に入れてある。
夜のアルバイトに出ている慶吾は、今日は早番だと言っていたので0時前には戻るはずだ。 國彦が壁の時計に目を遣ったとき、掌の下でたまおの耳がぴんと立ち上がった。
「けーごだ」
たまおに倣って國彦も耳を澄ますと、程なくしてバイクのエンジン音が近付き、家の前で止まった。たまおも身を起こして行儀よく座り直す。
大きな包みを抱えた慶吾が「ただいま」と小声で言いながらひょいと身を屈めて居間へ入ってきた。たまおの姿を認めて破顔する。
「たまおちゃん起きてたんだ」 「おきてた」 「寝てただろう」
訂正してから國彦は慶吾に向き直り「誕生日おめでとう」と告げた。慶吾の持っている包みを気にしながら、たまおも「おめでと」と言う。
「ありがと。今朝何も言わないから忘れてるのかと思っちゃった」
実は忘れていたとは言えず、國彦は笑ってごまかした。 プレゼントは随分前から用意してあったが、ケーキは夕方慌てて手配した。小ぶりのホールケーキには「Happy Birthday, Keigo」と書かれたチョコレートのプレートまできちんとのっている。
慶吾が部屋着に着替えてくる間に國彦が準備を調え、深夜のささやかな誕生会が始まった。
シャンパンのグラスを合わせ、クラッカーの上にスモークサーモン、アボカド、クリームチーズとフレンチドレッシング漬けにした玉ねぎのスライスをのせて頬張る。たまおはジュースを飲みながらサーモンだけを摘んだ。
小気味のいい音を立ててクラッカーを咀嚼しながら、慶吾は「唐揚げ食べたかったな」と呟く。國彦の作る唐揚げは彼の好物だった。
「あぁ、作ろうかと思ったんだけど……深夜に揚げ物とケーキじゃ重たいかと思って」 「若いから平気だもん」 「そうだったね。今度作ろう」
シャンパンのお代わりを注いでやりながら國彦は苦笑する。慶吾は今日で23歳。國彦とは実に13歳差である。
「酔っ払う前に渡しておくよ。お望みの品だ」
國彦は綺麗にラッピングされた小さな箱を差し出す。興味津々の様子でたまおが覗き込んだ。 現れたのは革製のキーケースだった。慶吾の好きなブランドのものである。
「覚えててくれたんだ」 「あれだけ言われればね」
慶吾は嬉しそうに微笑んだ。
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*明日(4/21)は更新お休みします。 他のシリーズものもさっぱり更新できてなくてすみません;もう少しお待ちください。
(2010/04/20)
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