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「あれ? これ國彦さんの大学じゃない?」

 関東圏のニュースを映しているテレビ画面を慶吾が指差した。

 昨夜遅くに起きたひったくりのニュースである。

 國彦の勤める国立大学のほど近くの路上で、同大学の教員の男性が後ろから来た2人乗りのオートバイによって持っていた鞄をひったくられた。男性はその際に転倒して頭を打ち、意識不明の重態。男性の叫び声を聞いて駆け付けた通行人が鞄を持ってオートバイで走り去る2人組を目撃している。オートバイの車種は不明。2人とも黒っぽい服装にヘルメットを被っており、どちらも大柄な男のようだった。警察は強盗傷害事件として捜査中。

「本当だ。物騒だな」
「犯人捕まってないんでしょ? 國彦さんも気を付けてね」
「ああ。……お、たまお。起きたか」

 たまおが四つん這いのまま寝室から現れた。ふたりの傍へ来て座り、尻尾をぱたりと上下させるお馴染みの挨拶をする。

「たまおちゃん、寝てばっかりいるとパンダになっちゃうぞ」

 慶吾が早速たまおを構う。

「ぱんだ?」
「何だそれは。初めて聞いたぞ」

 呆れた声で言いながら國彦がたまおの頭を撫でると、その肩に頭を乗せてたまおはじっと動かなくなった。

「つまんない。たまおちゃんのパンダ!」

 子どものように頬を膨らませた慶吾は、コーヒーを飲み干すと「お風呂入ってくる」と立ち上がって行ってしまった。
 慶吾が座っていた畳の上に、腹を上にしてたまおがころりと転がる。

「たまお?」
「パンダのまね」

 國彦は小さく吹き出した。

(2010/04/13)


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