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*実際の人物・団体・事件とはもちろん関係ございません。説明が無駄に多いので適当に読み飛ばしてね。

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「まったく、おれも高飛びしたい気分だよ。過労死しそうだ」
「忙しいのか」
「知ってるだろ、うちの学部長のスキャンダル」
「論文捏造?」
「ああ。その調査委員会が組織された」
「その委員に選ばれたわけか」

 返事の代わりに世良は盛大な溜め息をついた。

 西アジアのある小さな部族の言語体系に関する論文。現文学部長の若い頃の論文で、発表当時は学界で高い評価を得たのみならず、奇跡的に外界の影響をほとんど受けずに守られてきたその部族の言語や生活そのものが注目され、バラエティ番組で特集さえ組まれた。若き研究者は一躍、時の人となったというわけだ。

 その論文の信憑性が今、疑われている。発端は調査に関わった当時の学生による告発だった。

 調査から導き出した研究者自身の仮説を、あたかも事実であるかのように書いたというのだ。実際の調査からは得られなかったはずのデータを尤もらしく捏造して。更にそれが、論文のかなりの部分に関わるものだという。
 長期にわたる大掛かりで綿密な現地調査。にも関わらず、そこから得られたデータは論文を書き上げるには不十分な、中途半端なものだった。それを、研究者が絶対に使ってはならない手段で補ってしまったというのである。それがあまりに巧妙で、しかも研究の先例のない部族のことだったためにこれまで明るみに出ずにいた。


「やってくれたもんだよなぁ」

 当事者である沼沢佐一・文学部長は、何と海外へ逃亡してしまっていた。一応研究会だか調査だかという建前はあるらしいのだが、全く連絡が取れない状態だった。

「それで高飛び、ね」
「どこがいいかなぁ。タイとかベトナムなんてどうだろ。いや、ヨーロッパも捨てがたい。北欧にいちど行ってみたいんだよな」

 世良は遠くを見詰めて危ない笑みを浮かべた。

「まぁ、適当にさぼれよ。高飛び先で学部長と鉢合わせしないといいな」

 世良にいい加減なことを言いつつ、國彦の心は家で待っている筈のたまおと慶吾のもとへと飛んでいた。

「ケーキでも買って帰るかな」
「カレシか?」
「それもふたり」

 似合わないピースサインを突き出してみせる國彦を、世良は非難がましく見た。

(2010/04/07)


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