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 敷島慶吾が午後になってようやく起き出すと、たまおは居間のガラス戸に張り付くようにして庭を眺めていた。

 郊外の平屋の一戸建て。借家のそこは交通の便も悪く築年数もかなりのものだが、家賃は滅法安く、何よりなかなかの広さだった。和室をひと部屋まるまる書庫に充てても生活スペースを圧迫することがない。それが國彦がこの家を選んだ理由である。ささやかながら庭も付いており、たまおが今眺めているのがそこだった。

「何見てるの?」

 たまおの胴に腕を回して後ろから抱き付くと、尻尾が慶吾の腹を擽った。たまおの肩越しに雀が2、3羽、しきりに地面を啄んでいるのが見える。虫でもいるのだろうか。
 たまおはやや身体を強張らせながらも、大人しく慶吾に抱かれていた。腕にすっぽりと納まる身体。小さな頭に頬を寄せ、柔らかな毛に覆われた耳の先端を何の気なしに舌先でつつくと、腕の中でたまおは大袈裟なほどに跳ねた。

「くすぐったい?」

 思わず慶吾は笑い、たまおを開放してやった。

「シャワー浴びてくる。上がったらご飯作るからお箸の練習しようね」

 たまおは素早く後退り、壁際にうずくまった。



 慶吾が風呂から出てくると、たまおはまた耳を舐められるのを恐れてかニットキャップを被っていた。

「それ、たまおちゃんの?」

 慶吾は懲りずに寄っていってキャップの先端を引っ張る。たまおは両手で頭を押さえた。

(2010/04/04)


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