1週間も前から用意してた。入ることすらためらってしまうような高級そうな専門店のとびらを開けて、きれいなコーティングがされたチョコレートを買った。ただあたしには入る勇気までしかなかったみたいだ。なれない雰囲気がこわくてゆっくり見れずにてきとうに手にとって決めてしまったことは後悔している。
そんな後悔も意味がなくなってしまったけれど。
「…受け取れねーよ」
つきだした右手には1週間前に買ったそれがあった。あいかわらず考え方は女々しい。きまずそうにチョコレートから目をそらすシリウスに内心舌打ちする。
「なんで、」
「なんでって、だってお前…」
「もう別れてるから?勘違いしないで。そういう意味じゃないよ。別れてからあたしのことさけてるでしょ。そういうの、いやなの」
これをきっかけにして、前みたいな友達にもどれたらって思ったから。
いつからあたしはこんなに嘘がうまくなったんだろう。思ってもないことばは簡単にくちびるから吐き出されていく。
「そっか」
じゃあ、もらっとく。シリウスがほっとしたような顔でチョコレートを受けとった。なにその顔。うそだってことわからないの。あたしがシリウスと別れてからどれだけぼろぼろになったか知ってるでしょ。あれから1ヶ月もたってないんだよ。あたしはそんなにはやく切り替えることなんてできない。
「うん。じゃあ、これからまたよろしく」
「おう。名前、悪かったな、今まで」
「それはホワイトデーに形であらわしてよね」
「ははっ、ゾンコの新商品ダースで買ってやるよ」
無理して作り笑いをした。シリウスはきづかない。それがあたしとシリウスの過ごした期間の短さをものがたっているようで、悲しかった。
本当はあのチョコレートを渡してもう1度やり直したいって告白するつもりだったのに。あんな困ったような顔されたらああやって言うしかないじゃない。友達じゃつらいよ。もっともっともとめてしまう。
シリウスは背を向けて寮に帰っていく。あたしは目をおおきく開けて、こぼれそうななみだをこらえた。