サトシはばかだ。それに鈍感だしお子さまだし、女とか男とか恋愛感情っていうのをまったく、まーったくわかってない!(それはもう)(いらいらするくらいに!)
この前はバトルで勝ったことがよっぽど嬉しかったらしくあたしに抱きついてきた。あたしはもうびっくりして顔真っ赤にしてドキドキして。サトシはそんなあたしに気づかないで、あろうことか次はタケシに抱きついた。(あたしのときめきを返せ!)
さらにその前はあたしがぽろりと言ってしまった「すき」の言葉に「なんだよ改まって言われると照れるだろ〜でもまあオレもすきだしずっと友達でいたいな!」なんていうお約束なボケを笑顔でかましてくれたりして。(そのときのタケシとヒカリの哀れむような顔は忘れられない)
いろいろむかつくことを思い出して舌打ちする。それから石ころを思いっきり蹴った。お、ナイスショット。石ころは弧を描いて飛んでいく。となりにいたサトシが口をぽかんとあけたまま顔を青くしてこっちを見ていた。
「なに?」
「あ、いや、その…は、腹でも減ってんのか?」
「はあ!?」
「だ、だってなんか機嫌悪りぃし…」
「………(ば、ばか)」
サトシの中では怒っている=お腹が空いているという方程式が成り立っているらしい。つくづくお子さまだ。というより、色気よりも食い気?
はあー。大きくため息をつくとサトシが軽くにらむ。
「…なんだよそのため息」
「べっつにー」
感じ悪りぃの!言いながらサトシは後ろを振り返って、ヒカリと話していたタケシに聞いた。
「タケシ、ご飯まだ?」
「このまままっすぐいけば川があるはずだから、そこで食べようか」
「よっしゃ!」
なあーにがよっしゃ!だ。お腹空いてるのはサトシなんじゃない。喜んでいるサトシの腕をつかんで、ぎゅっと足を踏んでやった。かかとでいったから、きっとけっこうな痛みのはず。
「いっ!?」
「あ、ごめん。足元見てなくて」
「うそつくなよ!ぜーったいわざとだ!オレの腕つかんだだろ!」
「そうだっけ?」
笑顔でとぼければサトシはぐっと悔しそうに黙る。なんなんだよ、ぼやく声は無視することにした。
「ほら、はやく行こうよ」
手を出す。サトシはちらりとあたしを見て、それから笑顔で手をとった。
「よーっし!タケシ、ヒカリ!先行ってるからな!」
「転ばないようにね」
ヒカリの注意を聞いているのかいないのか、サトシはもう走り出していた。つないだ手はそのままだから、あたしも必然的にひっぱられる。(あ、あぶなっ)転びそうになるのを耐えながらあたしも地面を蹴った。