どんっ。正面から衝撃が走った。おどろきと衝撃で、一瞬息がつまる。見下ろせば、小さく肩を震わせた彼女がいた。
「名前ちゃん、どうしたの」
「………」
名前ちゃんは必死にぼくの腰にまきついている。様子がおかしいのは見てとれたが、なにがあったのかはわからない。
「…なるほどさん」
顔を押し付けているからか、ぼくを呼ぶ彼女の声はくぐもっていた。
「なに?」
「胸、貸してください」
まわされた腕がぎゅっと強くなる。ぼくを見上げた瞳は揺れ、声が震えていた。
「…いいよ」
ぼくの声を合図に、名前ちゃんは顔をおしつけ小さく嗚咽をもらして泣きだした。どうして泣いているのかは聞かないでおく。高校生という多感な時期なのだから、泣きたくなることだってたくさんあるだろう。
「名前ちゃん、」
頭をなでる。おどろいたのか名前ちゃんの嗚咽が止まった。
「きみがどうして泣いてるのかぼくは聞かないから、気がすむまで好きなだけ泣くといいよ。でも、ひとりでは泣かないでほしい。だれかを頼るんだよ。…そのだれかがぼくだと、とてもうれしいんだけどね」
最後の言葉を聞いて、名前ちゃんはばっと顔をあげた。目は赤いし、頬にも涙のあとが残っていたけれど、もう泣いてはいない。
「…な、なるほど、さん」
「あ、涙とまったね」
親指で頬についている涙のあとを拭ってやる。
「あの、なんかいまのって、」
「でもまだ目は赤いな」
「なるほどさん!」
言葉をさえぎれば、怒ったように名前をよばれた。
「なに?」
「…いまの、告白、に聞こえたんですけど」
「そのつもりだけど」
赤い目をして、口が大きく開かれたその表情を、ぼくはきっと忘れないと思う。