ちらり、ちらり。視線を感じる。隣に座っているサトシは向こうで遊んでいるピカチュウを見るふりをしながら、眼球だけ動かしてわたしに何度も視線を送ってきていた。(わたしが気づいてないと思ってるのかな)(…思ってるんだろうなあ)
わたしがサトシに顔を向けると、サトシはわたしから首ごと顔を背けて口笛まで吹き出した。
「…なに?」
「な、なにが?」
だからバレバレだってば。サトシの顔は耳まで真っ赤だ。
「さっきからわたしのこと見てたでしょ。なにか用?」
「み、見てねーよ!」
「…………あっそ」
ため息が出る。本当になにがしたいんだろうか。サトシのことだからたいしたことじゃないんだろうけど。…あ、また見てる。
「もう!見てるじゃない!」
「え!いや、その…」
「用がないならわたしちょっとタケシのとこ行ってくるから」
サトシはなんだか面倒だし。ピカチュウたちもそろそろお腹が空く頃だし。タケシにポケモンフーズでも貰いに行こうと思い、立ち上がる。するとサトシにぱっと腕を捕まれた。
「あ、あのさ…!」
「なに?」
やっと言う気になったらしい。サトシは口をぱくぱくと動かしている。
「き、きききききき」
「き?」
「…キス、していいか!?」
一瞬、なにを言われたのかわからなかった。サトシの言葉を頭の中で何度も繰り返す。うん?きす?誰に?…わたし?
「え、ええええ!?」
「なんだよっ。…嫌なのかよ」
「い、嫌とかじゃなくて!なんで、そんないきなり…」
顔が熱い。絶対わたし真っ赤になってる。(サトシは耳まで真っ赤だけど)
わたしとサトシは所謂彼氏彼女という関係だけど、想いが通じ合ったのは最近のことだ。キスはもちろん、手すら繋いだことだってない。(ほんとになんで…!?)
「な、なんだっていいだろ!」
「うわ!」
サトシはうろたえるわたしを真っ赤な顔できっと睨んで、掴まれたまままのわたしの腕をそのまま引っ張った。かと思えば、あたしの背中に手をまわしていて。気づいたときにはもう、かさついた唇の感触と、固く目をつむったサトシが目の前にいた。
「おーい!サトシー!」
遠くから聞こえたタケシの声と同時にぱっと唇が離れる。羞恥心でサトシの顔が見れなくて、俯いた。
「……タケシのばーか!なんだよ!!」
サトシは叫びながらタケシがいるであろうところに向かって走り出す。「な、何怒ってるんだ?」「なんでもねーよ!」サトシとタケシのやり取りが聞こえるなか、わたしはほてった頬をどうにかしようとやっと顔を上げた。…瞬間にピカチュウと目が合う。(まさか…)
ピカチュウは憎たらしくにやりと笑ったかと思えば、次はわざとらしく照れた振りをしながら両目を覆って鳴いた。
「ぴか…ちゅう〜!」