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センチメンター・ガール-2


 けれどでも、自室に戻り、ガス入りウォーターで一息ついた時、クラルは、思わず切ない溜息を漏らした。
 別れ際、頬を染めたお隣さんの嬉しそうな顔を思い出す。それでも見つかったのがクラルで良かった。なんて言われると、一応学生時代に寮監督――最高学年として寮内の下級生を纏める役――を務めた経験が有る身としては複雑な感情を抱いたけれど…あの、清々しい顔を見たらクラルは……クラルは溜息を零すしか無い。
 目の前のテーブルに置いたモバイルをアンテナアクセサリーから摘まみ上げ、画面をタップする。ぱっと表れたロックを解錠して直ぐに飛び込んで来た表示画像にきゅうと、唇を結んだ。切ない気持ちに成りながらも、くすぐったい幸福に包まれてでも、やっぱり胸がくうと苦しい。


「ココ、さん……」


 ディスプレイの中で本を広げている恋人は、クラルに向かい優しく微笑んでいる。
 真っ黒な髪を後ろに軽く撫で付けて、形の良い耳にカフスとキャッチャーが鎖で繋がっているヴィヴィッドピンクのピアスを付けて。真っ白なシャツの胸元から覗く逞しい筋肉から昇る色香を纏い、甘く、うっとりしてしまう笑みをクラルに向けている。先日のお家デートで撮った、クラルが思う一番のベストショット。
 思わずあの日の、あの時間の戯れ合いが恋しくなってしまう写真だから、たまに何気なく開いた時吃驚してしまうし、同じ職場の女性につい見つかってしまった時は、きゃーきゃー喚かれ送って送ってとせがまれ辟易としたけれど。(勿論頑として断るが、その度に改めて、自分は凄い人と恋人なんだと思い…照れるやら、青くなるやらだった。)でもやっぱり、眺めて思うのは愛しさだ。
 あの療養期間。仕事を思うと幾ら労災とは言え休職には抵抗があったけれど、ココの家でココと一緒に生活出来たあの日々は満ち足りて幸せだった。
 思い出してしまう。写真一つで全部。少し低い声、暑いくらいの体温、逞しい腕の力強さ。呼吸を忘れるその一瞬に、ココが持つ男性の香りに身体の表面を支配される。この場に、居るみたいに。
 勿論只の映像だから会った気分は錯覚だ。見ていると切なくなってくる。


「次は、いつ会えますか…?」


 そんな事。呟く前に電話なりメールなりして直接聞いた方がよっぽど生産的だし現実的だ。
 まるで、恋に恋している思春期の女の子みたい。それか、付き合いたての恋人達。何しているのかしら私……。クラルは軽く自己嫌悪して椅子の上で膝を抱えた。
 そりゃあ少し前に大喧嘩してまた元に落ち着いて以降第二の付き合い始め状態だし、小指でもペアリングを買ったし、何よりつい先々週辺り迄クラルは仕事のミスで負ってしまった怪我の療養の為二ヶ月近くココの家にお世話になっていた。だから一人きりの部屋を肌で感じると余計に、クラルは、ちらりと思う。会いたい。会って…お隣さんみたいにココを部屋に呼んで、一緒に過ごしてみたい。2mのマッチョ男性には狭い部屋だろうけれど珈琲…は、料理用のインスタントくらいしかないから紅茶を出して、おもてなししたい。彼に、お返しがしたい。
 そんな切ない彼女心を抱いて、クラルは、ココからおやすみ前コールが入る迄、揃えた膝小僧に額をぐりぐり押し付けていた。




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