クリスマスマーケットへは予定通り昼過ぎに到着した。街中にある広場で行われるそれは巨大ツリーを中央に座し、周囲に様々な屋台(木で作られた小屋型で、ホリデーの雰囲気を損なわないもの)が並んでいる。出店傾向はチュロスにクレープ、ホットドッグ、ホットワインにホットチョコレートと言った軽食類から、オーナメントにジオラマにランプ、革製品と言う小物雑貨まで。
「どこから見る?」
「そうですね……」
華やいだ雰囲気だ。平日の昼間ではあるが、人入りもそこそこに賑わっている。クリスマス目前の日常風景と言った所か。
「今年のオーナメントとジオラマをまだ買っていないので、それぞれをひとつづつ」
なるほど。と、それらが固まって出店されているエリアの場所を探る。僕ん家のリビングには飾り付けを待っているモミの木がある。
「後はクリスマスビスケット用のローラーを……」
脳内にある買い物リストを読み上げていただろうクラルの声が、ふいにぴたりと止んだ。不思議を込めて名前を呼びつつ視線を下ろせば、彼女の視線がある一点から動かない事に気付く。
「…………」
視線の先を追う。
フード系の屋台だ。カウンターの上に小さなサンタのお菓子が並んでいる。そこで丁度ひと組のカップルが、それぞれ飲み物を受け取る所だった。
「…………」
飲み物には生クリームがたっぷりと乗っている。なるほど、ホットチョコレートか。
「飲む?」
主語もそこそこに尋ねれば、彼女の顔がパッと僕へと向いた。頬が少し赤いのは寒さか、照れか。
「……気付きました?」
「他の人は知らないけどね。僕は気付くよ」
後者だと良いなと思う。勿論その電磁波の色を読めば由来なんて一目瞭然たが、よくわからないと言う曖昧さも、クラルとなら体験していきたい。
「寒いし、折角のクリスマスマーケットだ。暖を取りつつ周ろう」
手袋に包まれた手を取る。革越しに感じる小さな指先は血色の良い頬とはちぐはぐに冷たそうで、それは寒がりなこの子をずっと暖めてあげたいと思えるほど、愛らしかった。
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