20th


 恋人を迎えに行った。年始までのロングホリデーを一緒に過ごすのは最早例年の通例だった。彼女の職場屋上にあるヘリポートで落ち合い、グルメフォーチュンの郊外までヘリを出してもらう。
 冬も盛りのこの時期、グルメ細胞も無い恋人をキッスに乗せての夜間飛行は殺人行為だ。さっき通った雲の真下は粒子が凍っていた。そんな中を行き同様に時速約六十キロで飛んだとしよう。いや、二人なら四十キロが妥当かもしれない。それでも目的地はここから北上の、決して短くはない距離だ。僕は平気だが彼女は、クラルは凍傷になりかねない。

「実際、ターバンとローブが少し凍ったんだ」

 まあ。と、柔らかな驚嘆を発しながらクラルが微笑う。

「どおりで、いらっしゃった早々お取りになった訳ですね」

 ヘリの準備が整うまでの待ち時間に交わすスモールトークに、今し方の飛行体験は最適だった。

「そう言うこと。あのままにしておくとかなり濡れてしまったからね」
「それは大変です」

 クラルはくすくすと笑う。仕事終わりの彼女は、それでも僕との邂逅を意識してか、手触りが良さそうなセーターにレースの繊細さが女性的な長いスカートを身に付けていた。足元を飾るブーツも、手入れがされていて愛らしい。
 目を細めていたら整った指先が、ふとして僕の頬から耳横の生え揃えに触れた。

「あらでも……もう、少し濡れていらっしゃいますね」

 簡易的な待合室のソファに並んで座る僕らの間には身長差以上の空白は無い。
 左側で感じる愛らしい恋人の体温。僕を真っ直ぐに見上げる瞳は真っ白なミルクにエスプレッソを落としたかの如く瑞々しく、柔らかな影を頬に落とす睫毛が慎ましい。清潔な薄化粧。すっきりとした座り姿勢の肩を滑るその髪の、毛先に少し残る癖。さっきまで職務を遂行していた痕跡につい、手が伸びる。

「ココさん?」
「んー?」

 相変わらずくすくすと忍び笑いを続ける彼女に、間延びした返事を返す僕。摘んだ一房に惹かれるがごとく、身体を傾けその、クラルの可愛い耳元に顔を寄せた。

「帰ったら……前に君が買ったバスソルトを一緒に試そう」

 女性然とした首元へ鼻先を擦り寄せればブラックベリーの清純な残り香が触れる。柔らかな囁きが「……あら」と「困った方」と、含み笑う。ヘリの準備が整う。
 キッスは先に飛んで行った。今は恐らく、海の上空を楽しそうに旋回しているだろう。明日は昼過ぎに隣街のクリスマスマーケットへ行く。




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