ナンセンス


あの日から、数日が過ぎた。

いつもならクラルかリンに、もしくはそれこそサニーに連絡を入れたりするのに。何だかんだ繋がりが有るって、後ろめたい時に不便ね。クラルに至っては直の事。
だからって、ティナには言えないのよ。下手したらIGOとの繋がりに着目されて、どうなるか分かったもんじゃないもの。

バスタブの中で膝を抱える。バースディにクラルから貰った天然岩塩の入浴剤を溶かしたお湯は柔らかくて大好き。微かに硫黄の香りがするけど、許容範囲。暫くそうしてから縁に頭を預けた。
浴室に響くサウンドは大好きなアーティスト。全てに拘ったスキャンダラスなポップス。防水プレイヤーの中でディスクが回る。スタイリッシュでシルキーな声がいきなり"最悪のロマンス"だなんて言い初めて、…ジャストタイム過ぎて笑いたくなった。

でも消せないの。だって音楽が無いと、とてもじゃないけど私は静寂に耐えれないの。


「ろーまーろままぁ・がーがーうららーぁ」


コーラスみたいに叫ぶ。


「わっちゅあ・ばっどぅ、」


Romance。別に、最悪で最高のロマンスなんていらない。深く溜息を吐いた。
わたしはどうしたいんだろう。
額に張り付いた前髪を掻き揚げる。そろそろ、リンが不審に思い始めるかもしれない。ううん。それよりあいつはどうしているんだろう。のっぽでナルシーのあの男。

この数日間、退屈な講義にイースターパーティ。ディスプレイか愚痴に向き合うアルバイトをこなして私が出した答えはシンプルだった。
もう、元カレなんてどうでもよくなってる自分を私は受け入れた。

結局浮気をしていた男より、今はスマートに朝帰りしちゃった、あいつ。
改めて話をするにはあんまりにもヘヴィな事だって事。分からないパーティ・ガールじゃないわ。


「それとも、次に会えたら…元通りとか?」


あい・わなぁびーふれー

声が響く。
"I wonna be Friend"


「………。」


私達が行き着く先は何処なんだろう。

天井を仰いで「"二度とわたしを、ステファニーと呼ばないで"」自嘲気味に呟いた。そう言いきった、イタリア系アメリカンに私は永遠になれない。

だって私は、御曹司のパパに実業家のママ。彼等がくれた名前を愛して、境遇に甘えている。
だから今迄の幸福のツケが回って来たのね。

出会いもレールも何もかも。私がどうにかした物は何一つないんだって、気付いた。

クラルと知り合ったのはママのおかげ。IGOの観光ルートに行けるのはパパのおかげ。リンと知り合ったのはクラルのおかげ。サニーと知り合ったのはリンのおかげ。みんなみんな、誰かから貰った繋がり。
踏み外したくて入ったアルバイト先だって結局、ハートフルの息がかかってる。

自分で切り開いたって思って居た物は全部、まぼろし。


ディスクの回転に手を伸ばしてリピート設定に変えた。彼女はずっと最高で最悪なロマンスを求めている。その手で、フェイシャル・ソープに手を伸ばして躊躇って、結局それを引っ掴む。

セットになっていた入浴剤のバスケットはクラルとココからのプレゼント。ころんとキュートなソープディッシュはリンからのプレゼント。もう小さい、ベルベットローズの香りのソープは、サニーからのプレゼント。

バースディを祝ってくれる、友人の存在がすべてバスルームに溢れている。
今年はどうなるんだろう。
私は、どうなりたいんだろう。

今更踏み出すのが怖い私は、地団駄を踏んで結局また誰かが繋がりをくれるのを待っているなんてね。全然クールじゃない。スマートじゃない。シンプリシティ・ポスピタルも消えちゃってる。


それにモバイルは沈黙したまま。
スタンドに立っている。

前みたいにくだらない用事で、もう気紛れに掛けれないのよ。

そしてこの状況は身から出た錆だから。
嘆くなんてナンセンスすぎる。それこそカッコ悪い。


私はひとりで音楽を口ずさんで、そっとソープを泡立てた。




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