最高の友達


サニーとは、リンの後に知り合った。
場所はIGO主催のレセプション。

パパと一緒に出席したけど、私は殆どクラルと一緒に居た。
私は髪をアップにして、ディシャスのドレープワンピースにクリスチャンルブタンのエナメルパンプスをコーディネートしていた。
クラルにはローズブリット・ドレスのシフォンワンピース。並んで見栄えがいい様に、靴は同じクリスチャンルブタンで、彼女にはミュールを履かせた。

慣れないヒールにクラルはぎこちなくしていたけど、着せ替えの権利は私にあったから絶対に脱がせなかった。

大体2年前の事。

適当に人あしらいをしていた私達は、リンのクラルを呼ぶ声で、彼等に出会ったの。


『マリア。こちら、私の上司のリンさん。』
『よろしくだし!つーかクラル、年同じなんだしさん付け止めるしー……』


この頃は未だ、クラルのポライトはリンにも適応されていた。『無理よ。この子の話し方、私でさえ未だ抜け切らないんだから。』『マリア、』『マリア・ハートフルよ。クラルと同い年って事は私ともタメね。宜しく。リンって呼んでも良いかしら?』『大歓迎だし!つーか、ハートフルって…どっかで聞いた気がー…』『ああ、マリアは、』『何処にでもある名前よ。ポピュラーだわ。』クラルの言葉を遮って、リンと握手を交わした。


彼女とは直ぐに打ち解けた。
さっきの人あしらいが嘘みたいに、私達は盛り上がった。それはクラルの話から始まって(共通の友人が彼女だったからよ。特にスクールの話は最高に盛り上がったわ。クラルは嫌がったけど。)、私の話、リンの話、それからダイエットやファッションと言った関心事。


『だから。流行なんて、今を追ってちゃ遅いのよ。ブームなんて2年のサイクルで変わるんだから。定着、イコール衰退よ。』


そんな事を話していた気がする。
アンティーク好きなクラルは少し首を傾げてシャンパングラスを傾けていた。
リンは、興味津々と言った感じで聞いてくれて、そして、


『に、アホ面してんだよ。つくしくねー。』
『お兄ちゃん!?う、うっせーし!いきなりなんだし!』
『サニーさん。』


サニーが現れた。


『……誰?』グラスの影でそっとクラルに尋ねたら『リンさんのお兄さんで、サニーさん。ほら、四天王の方ですよ。』『ああ…』今時、口にするのも恥ずかしい肩書きを説明してくれた。


『よ、クラル。と、いつ…』


結構、独特の話し方をする男だと思った。チャラいって言うか、簡略語?少なくともレセプションで使う言葉じゃない気がしたわ。


『マリアだし!クラルの親友。』
『マリアよ。マリア・ハートフル。宜しく。』
『サニー。ろしく。って、ハートフル?』
『マリアでいいわ、』
『ハートフルって、ハートフルグループか?』


そんでもって、人の話を聞かない男。


『ハートフルグループ?』
『やめて。関係ないか、』
『しらねーとかありえねーし。お前が使ってる化粧品の、親会社だし。』
『え!?』
『美容食品の第一でもあるしよ。まじつくしさに半端ねぇ企業だぞ。へーだからか、』
『……凄いのはママよ。私じゃ、』
『まえのセンス、ハンパねーし。この空間とすげー調和してる。クラルの調和も前のコーディネートだろ?靴、揃いのブランドなのも。クリスチャンルブタンとは憎いし。しかし、なかなかつくしい。ヘアセットのアクセも、ピアスもネックレスも、押し付けがましくなく、それぞれを引き立ててるナ。により、ネイルが良。ダブルフレンチのグラデーション。パールがシャンパングラスとルイ・ロデレールの気品を、』
『ちょ、ちょっと待って!クラル!彼、一体何!?』
『サニーさんは…』


クラルは少し言い淀んで、リンにアイコンタクトした。


『お兄ちゃんは、美しさ至上主義なんだし。』
『なに、それ。』


本当にびっくりしたわ。もう色んな事に。男性の知り合いも多い方だけど、靴見てブレンド名当てたり、そもそもTPOもましてアクセサリーバランスなんて、誉められこそすれそうそう理解してもらえるモノじゃなかった。

それより、男性が私のファミリーネームからママの会社口にする事事態珍しかったのよ。
大抵今の時代もあって、どちらかと言うとグルメ市場に上場してるパパの会社の方に注目するもの。


『そ、から、まえ。合格。俺の目に適うなんて、ハンパねービューティーだし。』
『それは、ありがとう。そう言う貴方も、最高にビューティ−で、クレイジーよ。』









(あれから、よね。何かにつけ話す様になったのって。)


あの後、ココも紹介されたけど結局話していたのはサニーだった。なんだかんだ話題に事欠かなくて盛り上がったのよね。特に美容。



そして今。
私はアルバイト先のグルメテレビで、出勤のスキャンをした。
いくら嫌な事続きでも、仕事はやって来る。スケジュールは待ってくれない。
サニーは本当にあの後直ぐ帰った。
有言実行な所はほんとあいつらしい。


(一緒に、何度か飲みに行ったし。あ、ママの会社の美容原料の捕獲、引き受けてくれたっけ。でも一番はあれよね。お洒落。馬鹿みたいに話が合うの、あいつくらいだもの。仲良くなり過ぎて、男に見れなかった…て、いうか。)


ID証を首に掛け直して、丁度口を開けていたエレベーターに乗り込んだ。
緩やかに上っていく箱の中、私は腕を組んでパネルを睨み付ける。


(そもそも、なんであいつ居たのかしら…。)


クラルにはもう聞けないから、リン?でも待って。リンはサニーの妹だから…(ぜっったい聞けないわよ!)

そうこうしている内に、目的階について扉が開いた。「降ります。」扉の前のウーパールーパーみたいな頭の親父をすり抜けてフロアに立つ。
白で統一された開放的なフロア。事務的な空気の中、壁には看板番組と隔週ドラマのポスターが並んでる。ガラス張りの喫煙所を通り過ぎた所に私が働いている部署が有る。グルメテレビの看板報道局、グルメニュース。


「おはようございま、」
「だって特盛りなのよ!隠す方がおかしいじゃない!!」


(…また。)
入って第一に聞こえて来た声に私は肩を竦ませた。「マリアおはよう。」入れ違いで退勤する同じアルバイトの子が引き継ぎを持って来て、「ああ。ティナさん。またやったみたいよ」奥のガラスで仕切られたデスクルームを顎で刺して苦笑する。


「みたいね。」
「毎回懲りないよねー。花形キャスターなのに。単独行動多いし。はい、これ」
「それがスタイルなんでしょ?ありがと」


渡された資料を受け取って、割り振られたデスクに向かう。「じゃ、おつかれー!それ、打ち込むだけだから」「オーケー。お疲れさま」走り書きみたいな取材レポート。打ち込むだけって簡単に言うけど、結構骨折れるのよね。
近くの社員に校了時間を確認して、パソコンに向かった。


(あ。トリコの記事じゃない。同行の一般人、って。小松さんの事よね。ふーん。…そう言えば、今度リンちゃんの庭遊びに行くって約束したわよね。…サニーと、顔合わせたく無い。でも、避けるのも不自然なのよね。どうし、あ、変換ミスった)


それから資料と思考を行ったり来たりした数分後。
その内にフロアに響いていた声が止んで、


「あー!もうっ!なんなのよ!!美味しい情報を送るのはキャスターの義務!私の使命なのよー!」


頭をわしゃわしゃさせたティナが姿をみせた。


「って、マリア!」


さっき迄うーうー唸っていたのに、私を見つけた途端にまた大声。

ティナは局の花形キャスターで社員だけど、私とは何故か仲が良いのよね。(そう言えば前報道番組見ながらクラルにその事話したら、「確かに……マリアと気が合いそうよね」って「本音、隠し通せない所が似ているわ」…ちょっと身の振り考えたわ。)


「……おはよう。ティナ。相変わらずね」
「なによー!今日シフト入ってたわけ?そうならそうとメールしなさいよー!」
「したわよ」
「嘘」
「ホント。どうせネタ追っかけて、携帯ほっといたんでしょ?」
「あらー。ホントだ」
「ほら見なさい」
「なによー。仕方ないじゃない。めちゃめちゃ美味しいネタだったのよ!」
「それで、大目玉?」
「そう!マリア今から良い?コーヒー奢るから!愚痴付き合ってよー!ほんとIGOって権力振りかざして融通きかせやしないんだから!寧ろヨハネス!!」


そんな事、IGO職員の友人を持つ私に言われても困るんだけど。それと、ヨハネスさんも知り合いなんだけど。でも、これ秘密だから言えないのよね。

勿論クラルとココの関係も論外よ!
ま、ココの方がオープンだからたまにスッパ抜かれてるけど。でもその割りにはクラルの情報は絶対流出しないようにしてるから不思議よ。(一応、好奇の目には曝されないようにしてるって事よね。あの男)

ちなみに、私がハートフルグループの娘である事も、上層部しか知らないの。珍しい名前じゃないから、周りにも隠し通せる。てかバレたら色々面倒だし。


「いいわよ。後はチェックしてもらって印刷だけだから。 」


言うなり斜め前の社員に原稿のチェックと休憩の承諾を貰う。休憩に関しては相手が相手なだけあって、寧ろ怒りを鎮めて来てくれって顔されたわ。ま、私も色々考え過ぎて仕事に身が入らないから。彼には悪いけど、お守りより気分転換よ。


「あ、奢ってくれるならディティールのマキアートがいいわ」
「じゃ、3階フロアね!」


ついでに次の原稿の下書きも添付して、社内メールで送信。
完了を見送って、私達はエレベーターに向かった。




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