バッドディ


一昨日に失恋した。
昨日友達と馬鹿みたいに騒いだ。
そして今日、最悪な朝を迎えた。


神様ってやっぱり意地悪。


一夜の過ちって言っても、友達のお兄さんとかあり得ない!


(あーもー!何で?そうよ何で!?私、一緒に飲んでたのはクラルとリンでしょう!なんで、なんでサニーが居るのよ!!)


もう最悪。
思い出して来た二日酔いを抱えて、抜き足差し足忍び足で私はベッドから抜けると落ちてたワンピースとモバイルをせっ掴んでキッチンに移動した。ああ、ああ、ああ。頭が痛い。

でも取り敢えずは事態の把握が最優先。
私は手早くワンピースを頭から落として、同時進行でリダイヤルページを表示し、この時間(さっき見たベッドサイドのデジタル時計は八時過ぎ位だった。)なら起きていて間違いないクラルにコールした。寧ろ起きてろ。夜更かしとか不埒な事してないでよ!マジで!(あ。私が言えた義理じゃない。)


少しの沈黙の後に、耳元で響く電子音。頭にも響く。


(出ろ、出ろ出ろ。さっさと出ろ!)


願いは、10コール目で届いた。


『……はい。クラル、です…』


でも、予想を裏切って耳に届いたのは寝起きの声。わー貴重。じゃないわ。8コール過ぎた辺りから嫌な予感してたのよ。


「クラル…。」
『あら……マリア?おはようございます…で、良いのかしら?今、何時?』
「いいのよ。今、」
『8時6分だよ』


……親友の背後から、男の声がしやがりました。
て言うか、正確な時間をありがとう。このA型男!『マリアちゃん?』『はい。』『そうか……今日は早起きなんだね。』ほっとけ。聞こえてるわよ。『私が起こされてしまいました』『みたいだね。』僕が起こしたかったとか言うんじゃないわ、『僕が、起こしたかったのにな』言いやがった。『ココさ、ん…』『…また、後で。邪魔をしてすまないって伝えてくれ』聞こえてるっつーの。つーか今何したお前!クラルに今何した!!そんで後で何する気よあんた等!


『あ……ごめんなさい。マリア…』
「…うん。むかつく。そんで、やっぱ滅びなさい。バカップル。」
『……マリア。』


妬んでるってもうそう思われてもいいわ。こっちの傷も癒えないまま、見せつけて来るあんた達が悪い。
ついでに、クラルには悪いけど私……やっぱココ、苦手。ああも気障な所とか、彼女の友達に迄嫉妬するとか。私的に無い。ルックスは良いけど、残念すぎるわ。(そもそも年の割にクラルが初カノってどうなのよ。)

それにしてもいちいち二日酔いに響くわね。薬飲んでから電話すれば良かったかしら。

私は痛む頭を抑えた。勘の鋭いクラルはモバイル越しにも関わらず、『二日酔い?大丈夫?』なんて聞いて来た。「別に。」何だかカッコ悪くて突っぱねる。


「それよりクラル。」
『何?』
「あのね、昨日私達っていつお開きにした?」


でも、肝心な所は素直に聞いてみたわ。
記憶に無いなんて一々口にしないけど、そこは長い付き合いだもの。


『昨日?昨日は…』
「まえなぁ。クラルに聞いてもわかんねーし。」




最悪って、本当に重なるから嫌いよ。


『……え?』
「な、!」


寄りにもよってなんでこのタイミングで起きる訳?そんでなんでこのタイミングでやって来るのよ!空気読んで!!


『マリア……。今、の。』
「クラルは先にココが迎え来て帰ったし。に?まえ、覚えてねーの?」
「ちょっ!」
『マリア?ねぇ、今、マンション…よね?さっきから、』
「なんでもない!テレビよテレビ!」
「は!誰がテレビだし!!」
「うっさい!」
『ねぇ、マリア。もしかして…今、サ、』
「何でも無い!何でも無いわよ!邪魔して悪かったわね!ハヴァ・ナイス・ライフ!クラル!」
『え?ちょっと、マリア、』


私は心の中で謝って謝って、通話を切った。クラルはすんごく何か言いた気だったけど、ごめんなさい。今はそれどころじゃないのよ。
ああ、大声出したからやっぱり頭に来たわ。ズキン、ズキン。って頭が脈打って私はこめかみを押さえる。

目の前の不届きに向かってそのままの調子で罵詈雑言浴びせたかったけど、もうそれどころじゃない。心無しか、気持ち悪い。


「ちょ、まえ、」
「さい、あく。」
「じかよ…。二日酔いとか、つくしくねー。」
「……うるさいわよ。」


何時もの事だけど。あんたの美意識に、私のライフスタイルを巻き込まないで欲しいわ。


「…なぁ、」
「なによ。」


突っ立てないで、居るなら居るで薬くらい持って来て欲しい。ううん。それより先ず、服を着ろ。(信じらんない。こいつ、羞恥心ってモノが無いの?)御陰でサニーを見たく無い。


「マリア、まえ。昨日の事覚えてねーの?」


不意に、視界が陰った。反射的に顔を上げると、サニーのお綺麗な顔が私を見ている。


「クラルとの電話。つくしくねーねど、聞こえちまったから正直に言え。」
「なに、よ。」


長い髪がその体に掛かっていた。一応配慮してくれているみたいで、見たく無い場所は隠れている。でも、表情は、正直だった。


「答えろし。」


真実を口にする事に戸惑う。
追い込んでるのはサニーのはずなのに、追い込まれているのも彼みたいだった。
なんで、そんな顔してるのよ。


「……覚えて、ないわ。」
「……そ。」


頭が痛い。凄くズキズキする。

サニーはそれから背を向けて、「シャワー借りるし」って。バスルームに向かった。


「のさ。つに何も無かったから。」


そして、背を向けたままこう言った。


「裸だったのはまえが、吐いたからだし。」
「は?」
「洗濯機借りてる内に寝ただけだし。もう乾燥も済んでるし、シャワー借りたら帰るから安心しろ」


何よ、それ。

そんな気遣いで、私の胸がすくとでも思ってるの?ああ。なんだ。じゃあ何も無かったのね!良かった!なんて。サニー、それがあんたの美学だって言うの?(馬鹿にしないで。)あんたには悪いけど、私は男を知らない子供じゃないのよ。

シャワーの流れる音に背を向けて、私は薬を探してコップに注いだコントレックスごと錠剤を喉に流し込む。

覚えてないけど分かってる。
気付きたく無かったけど、自覚しちゃう。
だってずっとショーツをはき忘れた足の間がさらさらしてるのよ。
女だからこそ、分かる事。
この感じは、最高のセックスをした朝の感覚だって。


(にしても嘘吐くなら吐くで、もうちょっとまともなの言いなさいよ。)


嘔吐臭なんてどこにもないし、あんたが言った洗濯済みの服は私のベッドサイドに、私の服と一緒にくしゃくしゃのまま転がっていたわよ。




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