おさわがせ


(だから、全然、平気。)


くっらい道をヒール擦らして歩く。大の大人がふらふらと。


(そうよ。明日は1日オフなんだから。美容院いってやる。髪切ってやる。ネイルバリバリにしてやる。…あいつの所為で我慢してた事みんなしてやる。)


ついでに自分のプラン描いて薄笑い響かせてやりますよ。
周りの目?みっともない?


『いや…何て言うかさ、』


そんなのかんけーなーいっ!
(あ、古い)


『もう、お前の事…女に見れねぇんだ』


「ふざけんなバカっ!!」


あいあむマリア・ハートフル。安酒煽った帰り道。

数時間前に、最悪な失恋をした。

もうどうにでもなりなさいっ!!










「つかさ。女に見れなくなったって何?って話じゃない?って、リン!聞いてるの!?」
「聞いてるしー…。つーかもう耳にタコ…」
「タコ?良いじゃない!タコは良いわよー。生でもいけるし、揚げても美味!」
「タコ違いよ、マリア…」
「しゃっとあっぷクラル!このリア充!素敵なダーリンGETしてちゃっかり愛されちゃってるあんたに私達の気持ちが分かるか!指摘なんて受けたくないわ!」
「ちゃっかりって…」
「私達って、うちはマリアみたいに失恋してねーし!」
「ふん。恋なんてモノはね、いつか破れるから恋なのよ。」
「失礼だし!」


そんでもって、翌日の同時刻。
今度は気心の知れた友達を捕まえて、馴染みのラウンジの個室でらんちき騒ぎ。
呼びつけた理由は失恋じゃないわ。憂さ晴らし。断じて失恋じゃない。
男に追わされたシリアスなショックは、同性に極めてファンキーに癒してもらうに限るの。勿論、取って置きの食事とお酒も大事。ここぞとばかりに星が連なるグルメレストランのアソートと最高のグリュッグを用意するの。え?管巻いてるって?気のせいよ。

だって今日は無礼講なんだもの。


「クラルー!マリアが虐めるしー!」
「マリア……いくらご自分が失恋したからっていい加減リンちゃんに当たるのはお止しなさいな。」
「失恋じゃないわ。ひとつのロマンスが終わっただけよ。」


だって相手は私の大好きな友人。
リンとクラル。

クラルはグラマー・スクールからの付き合い。同じ寮のルームメイトだったから仲は凄くいいわ。しっかりしていそうな外見とは裏腹に凄くマイペースで、負けず嫌いだから良く衝突しちゃうけど。
リンはそんなクラルを通じて仲良くなった子。年は同じ位みたいだけど、ポジションはクラルの上司。そこんとこややこしいみたい。けど、まだまだキャンバス・ライフを楽しむ私は関係ない事よ。兎に角最高にキュートでユニークないい子。もうすっかり仲良しなんだから。


「てゆーかあんな男こっちから見切り付けてやったのよ!だってね、女に見れなくなった。なんて言いやがったのよ!そもそも誰のせいで美容院にネイルアート我慢したと思ってるの!!見て!この爪!このグレデーションにこの統一性!」
「……うん。すごいし。」
「行って来たのよね。」
「そうよ!美容院に、ネイルアート!そしてアイラッシュ!存分に満喫してやったわ。これぞ女の楽しみよ!特権よ!」


だからこんな風に声高らかに騒げちゃうのよね。
リンには「それも耳タコだしー」なんてまた言われたけど気にしないのよ。私にとってお洒落は、今日日の食文化と同じ位大事なの。あーにしてもこのピクルスの実美味しい。塩加減が絶妙でシャンパンが進むわ。
完璧なオーバル型にシェイプた爪も、パールストーンの乗った逆フレンチのバンビカラーネイルは素敵だし。


「なんで私、こーんな楽しい事我慢していたのかしら。あんな美意識も何も無い男に。」
「仕方ないし。マリアはいつも駄目な男に惹かれてるし。」
「そこ、黙りなさい。」
「良いじゃない。結果的には良かった事って事でしょう。」
「クラルまで…。」


うっとり眺めていたネイルから顔を上げると、シャンパングラスを掲げたクラルが。まるで肩の荷が下りましたと言わんばかりに笑ってる。


「是でも心配していたのよ?マリアは昔から自由で奔放だったのに。ここ暫く窮屈そうだったもの。」
「、そんな事…。」
「あ!それうちも思った!マリアらしく無いって言うか。」
「そんな…事、。」
「お兄ちゃんも、らしくねぇ事してぶさいくって、あ。」
「良いのよリン。サニーあいつ五分刈りにしてやる。」
「まぁ過ぎた事なのだから。それに貴方よく言ってたじゃない。次のロマンスを探すのよ!って。それが、ハートフルグループの娘。マリア・ハートフルでしょう。」


そしてクラルはシャンパングラスに口を付けて、


「そうだし!また前みたいに我が者顔で庭に遊びに来るし。マリアなら大歓迎だし!」


リンはまるで今を祝福してくれるみたいに、マンゴジュースのグラスを掲げた。


「あんた達、。…ばっかじゃないの。」


ああ、でも、そうよね。
ロマンスなんて世の中溢れ返る程に有るのよ。良いお勉強になったじゃない。
何より目の前にはサイコーの友達。この街とセックスを語るには一人足りないし、コラムニストも弁護士も居ないけれど、それでも十分すぎる仲間だわ。


「ま、いいわよ。クラル。私、あんたのステディ以上に素敵な人、捕まえてやるんだから。」
「ココさん以上…。いるのかしら?」
「言うわね。このバカップル。」
「はぁ、羨ましいし。うちもトリコと付き合いたいしー!」
「リンちゃん、。」
「あー。無理じゃない?愛も知らないネンネのチキータに、あんな猛獣手懐けられると思わないけど。」
「猛獣って誰の事だし!てかねんねって酷いし!」


ほら。
こんな風に馬鹿を言い合っても、結局楽しくっなっちゃって。皆で声を上げて笑ってしまうの。ホント、この瞬間だけは男なんてお呼びじゃない気分よ。自分で自分の首を絞めた駄目駄目な男はいつか後悔しなさい。私を手放した事、後悔しなさい。

だって私、次の日には綺麗さっぱり忘れて、新しいロマンスを探しているのよ。
そして、キラキラ輝くの。
恋に輝く子も居れば、愛に輝く子もいて、ダイヤモンドだって友達に出来ちゃう私達は、最高に綺麗になれちゃうんだから。

そうよ。女は強いのよ。


「もういいしー!うちもお酒飲む!クラルー、カクテル作って!」
「……え?」
「いいわねー。あ、私も。」
「マリア、貴方は飲み過ぎです。そもそも、私でなくとも専門の方がいらっしゃるでしょう?」
「良いじゃなーい!クラルのカクテル美味しいの。ほら、バーテンには話を通すから。」


言うが早いか。ボーイをベルで呼びつけて、バーカウンターを貸しなさいと、お願い。
帰って来た返答はOK。(ちょっと渋られたけどそこはほら、このバー私のママが出資してる所なのよね。)嬉しい対応にお礼を言って、呆れ顔のクラルに向かってにっこり笑って、


「てことで、わたしアグラベーション」
「うち前は飲んだクリームのやつ!」
「おふたりして、…今回だけですよ?」
「「クラルあいしてるー!」」

あーあ。これは次の日二日酔い確定ね。でもいいわ。今が最高に楽しくってナイスだから。どんなに頭が痛くなっても、構いはしないわ。
先に待っているロマンスに向けた、今はそう。準備期間なのよ。

思う存分、女を満喫してやるわ!








「て、頭重いー。きたぁあ…」


そして翌日。私は案の定、二日酔いに。
記憶はとってもあやふや。だってね、いつ帰ったかさえ覚えていないの。でもどうやら着ていたのものは脱ぎ捨てて居るみたい。さらさらのシーツが素肌を滑るから、って。私、裸。
…やってしまったわ。でも自分の部屋で良かった。ふたりのどちらかが連れて帰ってくれたのかしら?だけど、クラルが居たら絶対キッチンから良い香りが漂って来るだろうし。リンが居たら、絶対分かる。寝言凄いもん。


(ま、それにリンだったらこんなにゴツくないしね。、て……。ゴツ、く?)


ちょっと、待って。
寝返りを打った、その視界に飛び込んで来た姿に私は声も、ついでに二日酔いも忘れた。
間違いない。隣に、誰か寝てる。あの二人じゃない。しかも、

女じゃ、ない。
ふくきてない。
私もきてない。


(まって、待って待って!おんな、以前、てか、男以前に!衣服も置いといて!!)


広い肩幅、滑らかに隆起した、ダビデ像さながらの肉体美、シミひとつ無いブロンズ肌に、羨ましい程長い見慣れたブロンド色の睫毛。ビューラいらずのカールが呼吸の間に揺れてる。そして、まっったくあの子に似てない、髪の色。つまり、こいつ。


「サ、二ー……。」


−−!うそうそ嘘よ!
確かに、私は新しいロマンスを求めたわ。でも、こんなケースは願ってないわよ!

私、友達の、リンの、お兄さんと、まかさ、ちがう。まさか、


(ヤッちゃっ、た?)



お願い神様!記憶を返して!
こいつの目が覚める前に、お願いよ!!




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