正直な決意


「……は?」
「………」
「クラル、あんた。、何言ってるの?」
「その、」
「それも、ココに言われたの?」
「違うわマリア。あの、」
「じゃあ何よ!そんな、私が、サニーの事、そんな事…」
「マリア、」
「そんなこと…」
「………」
「ジョークなら、もっと笑えるのにして」
「ジョークじゃ、」
「ジョークでしょ!そんなの!!あんた、自分が何を聞いたか分かってるの!?」
「分かってるわ、マリア、」
「分かってない!分かってないわよ!分かってるなら、そんな事考えないはずでしょう!!そんな、私が?サニーを?そんなこと!」
「……違うって、言い切れるの?」
「それは…でも、」
「マリア、」
「でも!恋愛感情はないわよ!LOVEじゃないLIKE!彼はサイコーの友達!そうでしょ?だって、クラルあんた知ってるでしょ?サニーは、私のタイプじゃない!私は、もっと、そうよ!あいつとは逆のタイプが好みなのよ!!知ってるでしょ!」
「知ってるわ。…でも、それと好きは、必ずイコールになるのかしら」
「なるわよ!だって、私はずっと、そうやって、」
「そうやって、お付き合いして、いつも傷付いていたのは誰?」
「……クラル?」
「いつもいつも、型にはまった’ロマンス’ばかりして、最後に泣いていたのは…どなた?」
「クラル、」
「マリアお願いよ。もう素直になって。昔みたいに、自分に正直になって。貴方は気付いているでしょう?サニーさんは、」
「止めて!」
「マリア、」
「サニーがなんだって言うの!?何の事よ!!第一素直になれなんてそんな事、私はいつでも自分に正直よ!偽った事なんて無いわ!!」
「でも、」
「ああ、そうよね。あんたから見たら私は哀れなロマンスしかしていない様に見えるわよね!だってあんたは私と違うんだもの!あんたには最高のステディがいる!あんただけを見て、あんただけを愛してくれるダーリンが。クールで、スマートで、まるでおとぎ話みたいなね!さっきだって、あんたを心配して電話迄して来た!!」
「マリア!それは違います!ココさんは、」
「違わないわよ!あんたがドタキャンなんてらしく無い事したからよ!私にじゃない!!そうよ!誰もがあんたみたいに望んだ人に心から愛されて優しくしてもらえるなんて思わないで!!そうならないケースの方が多いのよ。全部、全部!皆ね、それを分かって、諦めながら生きているのよ!私はね、クラル。そう言う人間なの!もう、もう期待して傷付くのはごめんなのよ!!」


はっとした。
ちょっと、何口走っちゃってるのよ!これじゃぁ、これじゃぁ…クラルに、


「マリア…。…期待、って、」
「…帰って」
「マリア」
「ショッピングは中止よ。こんなんじゃ楽しく無いわ。クリーニングした服は、また今度送るから。…今日は帰って頂戴」


クラルは息を呑んで黙った。バツがか悪くって、私はもう一度はっきりと発音する。


「クラル、お願い」


視界に映るあの子の手が、その膝の上できゅっと握られた。
ベッドから立ち上がって、身振り手振り騒いでいた私は今は、伏せた額に手を当てて、裸足の足とラグに視線を落としていたからクラルの顔は見れない。ううん、


「帰って」


見れる訳ない。
ぎゅっと、目を閉じた。心臓がばくばくして痛い。体も、心も、言う事聞かないくらいくらくらして仕方ないのに、頭の片隅で、ああ、この子とこんな言い合いしたのって何年ぶりかしらってぼんやり考えてた。でも、私は、悪く無いわ。


「クラル、」


動く気配の見えない彼女の名前を、もう一度強く口にする。クラルは、何か考えている。でも、「……分かった、わ」そう言って、ベッドから立ち上がった。「服、お借りします」「ええ」クラルは目の前を横切って扉に向かった。ノブを回す。扉が開いて、「マリア、」クラルが、振り返った気がした。

私は答えない。お願い、さっさと帰って。これ以上は、


「マリアは、忘れてるかもしれないけれど、」


何も言わないで、帰って。眉間に皺が寄るのが分かった。ぎゅっと、目を瞑る。
何よ、これ以上、まだ私の醜態の話でもするつも、


「幼い私に、人に'期待'する尊さを教えてくれたのも、好きな人に好きって伝える素晴らしさを教えてくれたのも、貴方なの」


私は、なんにも言えなかった。

クラルは、そんな私の態度をどう取ったのかしら。きっと、いつものあの目で、真っ直ぐ私を見ているだろうクラル。
私は目を伏せたまま唇を噛み締める。クラルは「それだけ。もう、帰ります。」そっと、クラルの声のまま、優しく扉を閉めた。


私はただ、毛触りの良いラグの上につっ立ってる。
期待って何よ。勝手に人から学んで、何だって言うのよ。昔と違うのよ。私は。あんたが変わった様に、私も変わったの。それを、受け入れたの。
だから、もう、だから、私は、。

「なによ」


リビングから、きっとあの子が鞄を見つけて手にしてる音が聞こえてる。それから、ダイニングを抜けて、遠くなる足音。


「そんな、昔の……事、」


掘り返さないで。誰もが、誰もがあんたみたいには生きれないのよ。昔の私が素晴らしかったからって、今の私がそうだなんて限らないじゃない。
パンケーキを分け合った少女がもう過去のお話なら、制服を着て、笑って、チャイムの音で廊下を走ってミ・スールに怒られてた少女ももう、ヒールでタイルをカツカツ叩く大人になったの。
爪先へのハイリスクを知った、レディになったのに


「勝手な事…ばかり言って」


遠くで玄関が開く音がした。
フラットに近いローヒールを好むあの子からは背伸びをしたがる音はしない。
私は、唇を噛んで「あー!もう!!」叫び声を上げてベッドルームを飛び出した。「待ちなさいよ!」裸足の私の足に、堅いフローリングの感触。足全体で受けとめる地面。そうね今くらい、ううん。今だからこそ、私は地にしっかりと立つわ。だから、ちゃんと聞きなさい!


「あんたの言うとおりよクラルっ!でも、忘れちゃったのよ!私は!!」


扉を開けたクラルが目をぱちくりさせて私を見てる。「マリア…?」私を呼ぶ。


「だから、今度はあんたが私に教えてよ!私に、本当に好きな人に好きって言える素晴らしさってのを教えて頂戴よ!」


だって、だって私。


「そうよ!全部あんたの言った通り!私は、私はホントはサニーの事ずっと好きだったわよ!!悪い!?」


ああ!もう!すんごくカッコ悪い。でも、私、不思議と今、悪くないって感じてるの。笑っちゃう。


状況は、最悪なのにね。









最近は本当にアンラッキー続き過ぎて、幸せを忘れそう。
あ、そう言えば、ココには受難の相とかなんとかが視えたんだっけ?ああ、そりゃ。嫌な事続きにもなるわよね。

ラッキーに転化するアイテムとかなんとか、無いのかしら。

ついでに教えてくれれば良かったのに。


「あら珍しい。マリアが溜息ついてる」
「……ティナ」


サマータイムも遠に過ぎた日のお昼時。アルバイトに出勤して、自分のデスクでカチカチ原稿作ってたら、ティナに捕まった。


「あんたは元気そうね」
「え?わかるー?もうね、すんごい特盛りなニュース捕獲しちゃったのよー!!」
「………あ、そう。」


今の、嫌味だったんだけど。
駄目だわ。こう言う時のティナって、何言ってもきかないのよね。


「なにー?そっけないじゃない!聞いてくれないの?ほらー、どんなニュース取ったのー?とか!」
「…どんなニュースとったのー?」


ものすごくどうでも良いから。ものすごく適当におうむ返し。そんでもって、視線は目の前のディスプレイから離さない。ひたすら原稿を制作してるのに。


「もー!聞きたい?聞きたい?マリアだから特別に教えちゃう!」


テンション高過ぎ。視界のピンクがちらちらウザイんだけど。ちょっと、誰か私の代わりにこのキャスター様の相手してくれないの?って、ディスクトップからチーフに向かってアイコンタクトしたら、すまん!ってジェスチャーされた。

この、ウーパールーパーヘア。いつかそのサイドのミニアフロ引きちぎってあげるわ。


「で!マリア聞いてる?」
「きーてる。次はどんな犯罪紛い起こしてゲットしたのよ」
「犯罪まがいって!いい?いつも言ってるけど、あれは必要な仕込みなのよ?美味しい食材も、」
「'旬なニュースも、待ってるだけじゃ手に入らない'だったかしら。耳にタコよ」


胸を張ったティナの言葉を遮って、散々聞かされてる御託を代弁。ティナはちょっと拍子抜けって顔したけど直ぐに、「なによ!分かってるじゃない!」って。
スペシャルな笑顔。そんでもって、


「ティナ!背中叩かないで頂戴!痛いわよ!」


その笑顔に相応しい威力で、思いっきり背中を平手打ちされた。
思わず振り返って彼女を見上げると、「ごめんごめん」って。あんた、本当に悪いって思っていないでしょ。


「あ、そうそう。これが映像なんだけど!もー見てみて!特盛りのギガ盛りよ!」
「…あんたね」


私は呆れてなんにも言えない。ただ、目の前のハリケーン女に差し出されるまま、ハンディカメラの液晶ディスプレイを覗いた。ショッキングピンクの軽量タイプに付いたディスプレイに映像が映る。
映像って、編集に回さないといけないんじゃなかったかしら?

ま、取り敢えず暫くぼーっと眺めた。単調な風景。これの何処がニュースよ。って聞いたら、ティナはここからよ!ここからがギガ盛りなの!って鼻息荒くしたから私もあ、そうって。またぼーっと眺める。


「あれ?」


ふと、ティナが声を上げた。


「なに?」


私はカメラから顔を反らせて、ティナを見る。ブラウンのセミロングを揺らして、ティナはリップで薄桃色に染めてる唇に人差し指を当てて、うーんと、って唸ってからその指を私の指先に差して言った。


「マリア、ネイルもう変えたの?」
「ああ。これ?」


私は、指先を彼女に見える様に広げる。逆フレンチのパステルカラーだった指先は今は、ダブルフレンチのグラデーション。


「ちょっとね。…ジェルが欠けてカッコ悪かったから」
「ふーん。て、靴も初めて見るのじゃない!高そー…どこの?」
「クリスチャンルブラン」


シャンパンによく映えるパールが綺麗な指先をひらひらさせていたら「どうしたの?今日…ウィークエンド・パーティー?」週末に相応しいステージを口にしたティナ。私は「いいえ。ただ、…馬鹿な女の過去の、コピーよ」私にしか分からない言葉を返して、ハイヒールに収めた足を組み換えて視線をカメラに戻す。

別にいいでしょ。私だってね、ノスタルジアを感じたくなる時があるのよ。それになんたって、これから私はジェームス・ディーンみたいにきらきらした瞳を持った男とちゃんとしなきゃいけないから。それこそ、スピーチレスの歌詞みたいな事が私を待っているかもしれない。
だからよ。華やかな記憶を、思い出したくもなるのよ。

ティナは、ふーん。って。マリリン・モンローか何か?って。ちょっとマリリンに失礼な事言ったけど、すぐ私の顔の直ぐ横に顔をくっつけてディスプレイを指差した。


「あ、ここよ!ここから!」
「あー…。これって、」


……それにしても、ティナ。この映像、また…


「盗撮じゃないの?…相変わらず格好良くないことしてるわねー」
「もう!だからー!」


ティナの弁解にはいはいって相槌打ってたら、ポケットの中でモバイルが震えた。

摘み上げて、耳に当てる。「ハロー?」ハンディカメラを返して席を立った「今?平気よ。別にクラブで踊ってるわけじゃないんだから」ティナには、また後でね。ってジェスチャーして、ガラスで仕切られた無人のミーティングルームに入って


「ええ、来週末に行くつもりよ。ええ。…ありがとう。ヨハネス叔父さん」


ネイルに触れた。




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