トマト嫌い


「でも、電話するにしてもよ?、どんな風に…話を切り出したら良いのかしら…」

シーザーサラダにドレッシングを絡めながら聞く。
テーブルには私達に相応しい分量の料理が並べられた。


「そうですね…。あ、これレモンかけますね」
「うん…。あぁああ!」
「なに?どうしたの?」
「すんごく最悪なシーン想像しちゃった…」
「マリアは想像力豊かよね」


クラルは、呆れたとばかりに肩を落として料理を盛った取り皿を渡してきた。もう、ほっといて…ほしくはないわ。


「だって…あんなんの後よ!?素直に電話取ってくれると思う!?」
「素直かどうかはさておき…無視なんて非礼はなさらないと思いますけど?」
「あー…そうかも…」


クラルが、いただきます。ってサラダを口に入れた。私も唸りながら、いただきます…。って言って、取り分けてもらった黒酢がたっぷり掛かった唐揚げをほうばる。…てか、黒酢かかってるのになんでこの子レモンかけたの?


「でも、」
「でも?」


サラダを飲み込んでから、クラルは言った。


「'過去を蒸し返すのはつくしくねー'」
「な、!」
「って、はぐらかされはするでしょうね」
「や、やめてよ!びっくりしたじゃない!!」


予想外に似ていた…。流石、一応同じ所で働いているだけはあるわね。
あまり感心したく無いけど。


「……さっそく、挫けそうよ」
「ケース2に変更します?」
「それは嫌!」
「じゃあ、腹をくくるしか」
「あんた…人事だと思ってー…」
「いつか。すると思ってました」
「犯罪者のクラスメイトみたいな事言わないで頂戴!!」


しかもご丁寧に泣き真似までしてくれたわこの子!
それにしてもあれね。その言葉って言われると意外に傷付くのね。


「まあ。冗談はさておき」


クラルは唐揚げに付いて来たプチトマトのヘタを摘んだ。


「確かに、実際問題。話し合うにしたって、タイミングは大切ですね」
「あー…」
「機嫌の悪い時に重なったら、最悪…友情さえ終わってしまうかも」
「まぁ。それは覚悟してるわよ」
「あら。殊勝なお心がけ」


口に含んで、おしぼりで手を拭く。トマトが大嫌いな私はよくそんなの食べれるわねーって思った。でも御陰で、サラダに乗っているスイートトマトもクラルが全部食べてくれる。


「心がけもなにも。それだけの事、しちゃったのよ。罰はきちんと受けるわ」
「………マリア」
「……なによ?」


口を空にしたクラルが、そっと笑った。でも、それだけ。何も言わない。


「なによー」
「なにも」
「なんなのよ」
「なんなんでしょう?」


クラルは二杯目のウーロン茶に口をつけた。これ以上は話さないって。言われなくても理解したから、私は溜め息を零して後ろの窓に視線を移す。

遠くを見れば、いつの間にか暗くなった空に目映い夜景。けれど都会らしく微かに掛かってるスモッグでそれは霞んじゃってる。
近くを見れば、鏡みたいになったそこには口を尖らせた私が写っていた。いーっと悪態をつけば向こうもいーっとやり返す。ばかみたい。


「マリア?どうしたの?」
「んーん。あ、これ食べちゃって良い?」
「どうぞ」


向き直って、端に寄せてあったクラルのお通しを貰った。コラーゲンゼリーとビタミンきゅうりの和え物。
サニーだったら絶対、喜びそうな品。


「そう言えば」


クラルがふととした調子で呟く。


「話し合うって、何処でするんです?」
「あ」


考えてなかったわ。


「カフェとか?」
「周りに人目があった状態で、サニーさんが面と話すでしょうか?あの方も有名人ですよ?周りの目って意外に鋭いわよ?」


わー。経験者の言葉ね。説得力が凄いわ。


「んー…じゃぁ、ダイニング・バー?」
「ああ。こう言う個室の?」
「そう。あ!でも無理!!私が無理ー!」
「無理って…」
「二人きりとか耐えれないわよ!はぐらかされるか、向こうが帰っちゃう可能性が高いわ。てゆーか、そうなる自信がある」
「そんな…。分かってると思うけど、私は同席出来ないわよ?」
「やっぱそうよねー…」
「そうよ、二対一になったらそれこそサニーさんに失礼でしょう」
「うーん…」
「それこそ、あの方…帰りかねませんよ?」


有り得る。十分有り得る。
私はお通しを頬張りながら唸った。唸ったって何か良い案が出る訳も無いのよね。
取り敢えず、思いつく事言ってみようかしら。そうね。


「仲裁…」
「はい?」
「味方とかじゃなくて、仲裁として…。」
「仲裁って…」
「だって、きっと私達ふたりじゃ…進展しないわよ」
「そんな事…」
「ないって言い切れる?」
「……。でも、誠意を見せて話し合うんでしょう?こちらが提示したら必ず、あちらだって、」
「あんたのダーリンと違うのよー。肝心な事隠す奴よ。そんで、隠し通していけない奴。」
「……でも、私が入っても、」
「も?」
「そんなに強く出れませんから、あまり変わらないわよ」
「…そう?」
「ええ。だって、私は何かあったらマリアの味方についちゃうもの」


アンフェアでしょう?と苦笑するクラル。
ちょっと、なにさらっと嬉しい事言ってくれんのよ。感動しちゃったわ。


「…話し合いとか、夢のまた夢に思えてきた」
「マリア、。それより、あちらもこんな風に何方かに相談していらっしゃれば違うんでしょうけど…」
「相談、ね。有り得ないわ」
「でしょうね」


それからは降って湧いた沈黙だった。
私はずっと自問自答して料理を食べて、クラルも黙ったままセロリのピクルスを食べてた。
てかこの子、相変わらず野菜しか食べないわね…。そっと、取り皿に唐揚げ乗せてやる。


「あ」
「何?」
「マリア…」


肉食え、肉。今日日肉抜きなんて流行らないわよ。


「…サニーさんにもこんな風に強気になれば宜しいのに」
「う。うるさいわよ」


でも、大人しく食べてくれた。
それにしたって、強気、ね。こんな事になる前は結構それなりに気が強いって言われたから、強気にはなれてたのよね。てか、サニーの前で性格迄女で居る必要性無かったもの。


「あー。時間巻き戻したい」
「巻き戻して、同じ事しないって言い切れるの?」
「それは、」


記憶無いから何とも言えない…


「夢物語はお終い。もっと生産性のある話をしましょうね」
「そんな事言ったって…」


だって平行線じゃない。

あーあ。もう。私が愛したシンプリシティは何処に行ったのかしら。トリコみたいに決めた事突き進んでいける性格だったら良かったのに。
…だからって。付け焼き刃で演じたって、ぼろが出るだけよね。それどころかきっと、すごくしっくりしないのよ。誰かのコピーはカッコ悪いわ。

それでもね。
高望みだけしちゃうの。

決着を付けるなら、無防備じゃなくて、って考えて。それこそ…目の前の親友に頼っちゃってるし。


「カッコ悪い」
「どうしたの?今更」
「……クラルって、ほんと私に容赦ないわよね」
「それだけの事してるって事よ」


そう言われたら、今日の私は言い返せない。


「とにかく、整理するわ」
「それはいい事ね」
「、先ずは電話して…呼び出して、謝って、話し合って。後は」
「後はケースバイケース」
「…私、耐えれるかしら」
「応援してます」
「クラルー!」
「だって、それしか出来ませんもの。マリアの代わりに電話したとして、私がサニーさんを呼び出す事が出来る訳ないでしょう?」
「なんで?」
「何でって……後がこわいです」
「あー。ココのジェラシー」


クラルは否定も肯定もしなかった。それが逆にとっても切実に見えたわ。

そして、少し俯いて黙り込んでる。……何があったのよ。気になったけど、聞くのは止めた。

そうよね。この子もう既に隠し事しちゃってるものね。これ以上のお願いは申し訳ないわ。

グラスを傾けて、ふぅ、と溜息を吐いた。今飲んでいるのは勿論ノンアルコール。流石にお酒を飲む気にはなれない。

そんでもってやっぱり、自分で切り開くべきなのよね。
電話して、先ず話が進めれるかどうかが問題なんだけど。考えたってしょうがないわ。そうよ。万一、それこそ、クラルが言ったみたいな事言われたら…食いついてみようじゃない。そんな事には出来ないって。


(……出来るのかしら)


あー。想像したら、ホントに自信無くなって来た…。口ではああいったけど、嫌われたく無いわ。
…手遅れかもしれないけど。
だってあんなに話が合う男って、今迄居なかった。寧ろ居るタイプじゃなかった。

だから、大切に……って、あら?


「マリア、」


ふいに、名前を呼ばれた。
クラルだって、気付くのに少しかかちゃったけど私は比較的普通を装って答える。


「なに?」


何か、大事なことに行き着いた気がするけど…なんだったかしら?
取り敢えず目の前の親友が凄くシリアスな表情でこっちを見てたから、私は全神経を集中させて向き合った。


「何?クラル」
「あの、マリアは本気で…話合う覚悟があるのよね?」


クラルは少し言いにくそうに口を開く。


「そんなの、当然じゃない」
「本当ね?」


私に念を押す、その声は余りにも重かった。
まるでその一言にこれからの言葉を全て従わせているみたいに。でも、私だって、腹は据えているんだからすかさず言ったわ。


「本当!話し合うって言うか…とことん謝るわ。、自己満足かもしれないけど」
「それじゃあ、ひとつ、提案が」
「…提案?」


クラルはひと呼吸置いて、


「ええ。マリアさえ良ければ。それだときっと一番公平で、スムーズにいくかもしれません。場所も、お願いしたらきっと…」
「…待って、クラル。その案って、もしかして…」


そして、はっきりと言い切った。


「仲裁、を。ココさんにお願いするんです」




やっぱり。


まぁね、現実的に考えたらそうよね。当人同士がこんなんなんだもの。それなりに経験も良識もある大人が入れば話は纏まるわよね。それが分析力と冷静さも持っていて、おまけに言葉巧みときたら申し分無いわ。
なによりサニーが、ココには絶対逆らえない感じだものね。そんでもってココは、絶対クラルのお願いを断らないものね。


「こ、ココ…?」
「はい。どうです?」


どうですって、どうですって。そりゃ、適任だと思うわよ。でも、。


「その場合は、勿論私も同席するわ。それなら多分、お二人だけよりは話し合えるんじゃないかなと…」
「それは、そうかもしれないけど…」


確かにそれは素敵だと思う。
だって、あんたは気付いているかどうか知らないけど、少なくとも大切な親友の心配が減るわ。それに関しては大賛成よ。


(でも、逆にそれ、私達が、大丈夫なの?)


どこぞの占い師じゃないけれど、すんごい小言を言われる未来が浮かんで私はまた少し唸ったの。





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