これからも



「寒いですね」
「そうだね……」
「どうなさいました?」
「いや……別に」
「……手袋、脱ぎましょうか?」
「え?」
「あら、違いましたか?私てっきり…」
「…………」

 あらま、図星ですね。なんて、なまえは笑いました。首にマフラーを巻いて、生地の厚いコートの前ボタンまできっちり締めて、ココの横でくすくす笑いを零します。

 そこは、グルメフォーチューンの駅から近い、広場でした。少し前にその場所へやって来た2人は、広場でまったりする人達のように、お昼は雑貨屋さんの軒先で2人、連れ添って時が経つのを待っていました。
 太陽はとっくの昔に西へとっぷり沈み、今や日付が変わる刻限ですが今日ばかりは、寧ろこれからが真骨頂。大人も子供も続々と、外へ集まって来ています。広場には駅に近くにつれて屋台が並んでいます。ぴかぴか光るオレンジの光が、夜の紺碧に灯ってとても幻想的で、それだけでその景色は何だか特別な物に変わっています。
 なまえは、ふふふ。と、笑いを零しました。
 その頬は寒風に晒されて少し赤くなって、そんななまえを見下ろすココは、彼女はやっぱり可愛いなあ。なんて、思いました。
 だからこそ、ココは、

「……そんな、寒そうなほっぺされて、そんな事思う訳無いだろ」
「あら、」

 なまえを抱き寄せました。そうしてそのまま、前を閉めずにおいた自分のロングチェスターコートの中に、なまえをすっぽりと仕舞います。見頃を合わせて背後から、抱き締めて、自分を見上げた恋人を見下ろします。

「ココさん…」
「流石に、年の瀬は寒いね」

 ごーん。どこからともなく、除夜の鐘が聞こえて来ます。

「ココさん…ご存知ですか?除夜の鐘は…」
「煩悩を消す音だろ?知ってるよ」

 道々から、人が溢れて来ます。

「でも、彼女が寒く無いよう気遣うのは、邪念じゃないから消しようがないんじゃないかな」
「……もう」

 こんばんは。やあ、こんばんは。今年もお世話になりました。すれ違う人がココ達に挨拶します。なまえの様子をみて、柔らかく破顔する人もいます。「すみません、この様な姿で…」そう、気恥ずかしく会釈をすれば、いえいえ、気遣いの出来る良い旦那じゃ無いですか。なんて、言われて、なまえは気恥ずかしくて苦笑してしまいました。
 ココだけは上機嫌で、「良いお年を。あ、行くなら駅の横の噴水辺りがいいですよ。まだぎりぎり、人か疎らです」と、男性の礼を受けて見送ります。

「旦那、だって。そう見えるのかな」
「その様ですね……少し、照れてしまいます」

 なまえはくすくす笑います。ココも、ははっと声を出して笑って、

「まあ、来年辺り、そうなろうか」
「−−え?」

 やがて、辺りからカウントダウンの声が誰ともなく響いて、ごーん。と、一層大きな音が鳴った頃、真っ暗な空、丁度駅のロータリーがある方向に大輪の花がぽんぽんぽん、咲き始めました。

 数秒前の様に、また、誰ともなく歓声が上がって、誰ともなく口々に。あけましておめでとう。今年もよろしくね。なんて聞こえて来た、そのあたり。ココは自身のコートに包んだまま、ぽかん、と。でも僅かに頬を、寒さとは違う意味で頬を紅潮させてココを見上げるなまえに、微笑みました。

「今年…だけじゃなく、これからもよろしく。なまえ」





2017.1.1掲載
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2017年も、こんな感じで。よろしくお願いします(*'ω'*)


 
 
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