Lovers!



 ターバンも付けた、バンドもした、なまえにハグもした。行ってきますのキスもした。……唇…やっぱり柔らかいな。…女の子、だな…それ以前に野郎の唇なんて知らないが。それにしても、相変わらず良い匂いがする。甘い、日だまりのような温かい香りだ。
 昨夜は髪も体も同じソープを使っている筈だが何故だろう…、いや。ソープじゃない。シトラスの香りは霧散したかあの後のアレでシーツに流れたはず…………やべ。思い出した。
 ……。でも…アレの時のなまえは何時の割り増しで可愛い。普段の慎ましやかな雰囲気とのギャップも有るだろうだが、何より僕しか知らないと言うのがね。まぁ未だに初めは恥じらうがでも、追い詰めて行けば素直になって……て、違うだろう僕!これじゃへんたいじゃないか!!何より今から仕事だぞ!

「…ココさん?」
「な、何かな!?」
「……いえ。…ずっとマントの前から動いていらっしゃらないので…どうかなさいました?」
「別に!どうもしないよなまえ!!そ、そろそろ行くところさ。ははは」

 危ない危ない。
 そうだ。仕事だ。切り替えるんだ。

「それじゃあ…行って来るよ」
「はい。今日も頑張って下さいな」
「ああ。ありがとう」

 う。マジ、可愛い…!見上げられるのは慣れているのに、なまえからのは別格だ。特に仕事前のお見送りは、なんか…新婚、みたいで…こう。行き際にお使いとか頼まれたら完璧だよ。つーか、お気を付けて。とか…本当に反則だから。あぁ…ずっと会えない訳じゃないのに凄く後ろ髪を引かれてしまう。

 −−いや。駄目だ。思考を仕事モードにチェンジするんだろ。
 こんな事ばかり考えていちゃ堕落するぞ。なまえの前では不様なんて絶対見せたくない。

 ……良し。

 マントを片手に取ったら、靴の爪先から踵の位置を調節して、邪念は振り払おう。
 今日は予約優先だから開店前に台帳を開いて再確認だ。それから何時もの手順(店内清掃、タイムテーブル確認、)で店を開けて、予約者から順番に…




「あ、ココさん」

 突然、後ろから呼ばれた。振り返ったら今さっき潜ったばかりの玄関を開いたなまえと目が合って、良かった。まだいらして。なんて小走りで僕の傍へ……て。君、さっき僕を見送ってくれたよね?折角邪念を…いや、僕の中の葛藤だけどさ。

「何かな?」

 つーかほっとした、面映ゆい表情で見上げないでくれよ…。すっげぇ抱き締めたくなるだろ。

「……あ。あの、お帰りの際にペリエを6ガロン買って来て下さいますか?」


 ……6ガロン?


 ガロン…ガロンって…何オンス否何リッターだ?そもそもあのシリーズガロンで売っていたか?一番大きくて750mlじゃなかったか?じゃなくて6ガロン分って事か?凄い量だぞ…否、それよりまだストックルームに1ダース有ったよな。そもそも僕等がガロンで買っているのって…

「……なまえ」
「はい」
「…それ、本当にペリエ?ストックが切れかけているのは寧ろカイザーじゃなかったかな?僕の認識違いじゃなければペリエにガロンは無かったと思うけど」
「……私、今…ペリエって言いまし、た?」
「え?ああ…。別に君が望むのなら買ってくるけど……なまえ?……、」

 …………何だ、コレ。

 色の濃い瞳、髪と同じ色の睫毛に縁取られた目が膠着して見開いている。だけでなく、赤く染まった目尻…より、顔。
 どうしてこうなった?僕、別に今は君を口説いていないぞ。訳が分からない…。
 そうして暫く観察していたら微かに開いた愛らしい唇が戦慄き、すみません。との呟き。そして僕の視線を彼女の瞳が捉えた後、瞬きひとつ。珍しく下に逸らされた。なまえから反らしてくるなんて…かなり珍しいな。

「…なまえ?」
「あ、はい。…すみません」
「いや…それは、別に…」

 彼女らしくない。でも何だ。今のなまえは…滅茶苦茶、抱き締めて、キスして、キスしてキスして、むいむいしたい位に…可愛い。

「なまえ…?」

 あ。そうか。電磁波。電磁波が何時もと違うんだ。なまえ本来の形状の中に滲んでいるこれは…何だった?この形は…どんな時に出るものだったか。この、流れは…なんか見覚えあるんだが……。
 思い出せないままは何だか居心地が悪いんだよなー。喉の奥に魚の小骨が刺さったみたいにもごもごする。
 そんな原因の小骨ちゃんは真っ赤なまんま「すみません。カイザーです。あ、ガス抜きで!その、カイザーを6ガロン。お願いします…その、」早口で捲し立てたけれどやおら耳迄染め上げた顔で僕を見上げ

「…お仕事、…頑張って下さい」

 ………だから、その顔は反則だ。





( Lovers!)





 なまえはキッスに跨がり職場へと飛び立ったココを見送った。
 大きな羽根で空気をばさんばさんと混ぜ混ます大烏の勇姿が、雲の下から南へと向かう雁の隊列を僅かに乱して悠然と飛んでいく。そんな彼等の姿が雀程の影に成ったその時、なまえはその場に蹲り、小さく呻いた。

 ココが思わず、よく熟れた林檎や李の様だとからかいたくなる位に染まった頬。冷たい風がちょっと気持ち良いなんて思ってしまうそれを両手で挟み込み噛み締めた唇から、溜め息。ひとつ溢してそれから心の中でなまえはなまえに言い聞かせた。
 なまえ、ねえ貴女。一体どれ程彼と過ごしていると思ってらっしゃるの?ねえなまえ。もう、恥ずかしいわ。恥ずかし過ぎるわよ、あんな言い間違えを犯してしまうだなんて。なまえ、しかも…しかも貴女どうして間違えてしまったかと言うと、私……

「……ココさんに見惚れて、言い間違えるなんて…」

 なまえは彼の名前を口にした自分の呟きでつい、真っ赤になった。言葉が引き金となってココの全て(それは彼の容姿に始まり立ち姿、秀麗な微笑みに乗る意思強い声。仕事に赴く前の、ローブに向けられた凛々しい眉から深思を持った瞳に眼を奪われる、真剣な横顔。…けれど一番に頭を占めたのはつい先程の彼。やおら抱き締められて顔を掬われたと思った時にはキスされて、キスされてキスされて。離れた時に、君を連れて行きたい…。と酔然たる面持ちで囁いた彼)を思い出してしまい、なんだか胸がきゅうと甘苦しくなる。
 それでも次に風が彼女の頬を撫でた時になまえは、これはダメ。この状態は非常に宜しくないわ。と、ひとり熱が上がってしまった頭と思考を、いけません。いけません。と振り、或いは払ってそして深呼吸をした。

「さ。今日こそお洗濯しましょう」

 そしてどうしても連れて行きたがったココを宥める為に、今日の夕食に出すと約束をした彼の好物のレシピを確認しなくては。ココはあれで食に拘る美食屋でもあるから、素人の自分は頑張らなくてはいけない……よりも、1日仕事に励んで来た彼氏には美味しいものを食べさせたい彼女心だけれど。
 なんて事を考えたなまえはでも、ふと思って呟いた。

「…なんだか、今の私達って新婚さん…みたい?」

 呟いて、また顔を赤くした。






*It's Happy day!*
‐‐‐‐‐‐‐
え?オチ?………見失いました・∀・
ちなみにネタ(?)はEでの落書きからです。6月辺りのです。…つまり約半年、放置してました。
新婚さんみたいな恋人関係が書けていたら良いな。
ありがとうございました



(11.12.11/掲載)
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