せんせい、

背後から聴こえた声。姿を見なくともそれが黄瀬涼太のものであることはすぐに分かった。
昼下がりの休憩室。珍しく人が少ない。


「せーんせ、なにしてるの」
「午後の授業にそなえて、すこし休憩を」


向かいの席に座った彼を、窓越しに太陽が照らす。こがね色の髪がきらきらと眩しい。
彼はとてもきれいだし、すべてにおいて軽やかでスマートで、そして怖れをしらないところがある。


「ねえ先生、彼女とかいないんスか」
「さあ、どうでしょうね」


なあんて。
たわいないやりとり。


けれどきっと彼もわかっている、ここでボクが正直に答えてしまえば彼はしかるべき行動をとるだろうし、そしてボクははじめから決まっていたかのように彼に流されてしまうってことを。


「はぐらかすのはやめませんか」


彼のすうっと細くて長い指がボクの手を撫ぜた。



ほんとうはずいぶん前から、もうどう言っても躱すことはできないのだ。



そして二度と離れられない
130217

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