携帯電話が振動して、着信を知らせた。ディスプレイに表示された名前をみてびっくりする。

時計を見ると午後6時すぎ、…ってことは日本は夜中の2時くらいのはずだ。あいつが俺に電話してくること自体が今世紀最大のビックニュース(さすがに大げさすぎかもしれないけど、)といいたくなるくらいに珍しいことなのに、しかもこの時間に、だ。なんかあったのか?

獄寺たちが近くにいたので迷ったが、とりあえず電話に出てみると。


「もしもし」
「ねえ、いまなにしてるの」

えええ…あのひばりが、俺に、そんな質問?このへんな時間に?
拍子抜けしてしまった。
なんか大変なことでもあったのかと思ってちょっと心配したのだけれど、まあそんなことがあったら俺じゃなくてツナに電話するわな。うん。

獄寺が俺を見てあからさまに顔をしかめたから、「悪い、先行ってて」と小声で伝える。「いつもの店行ってるから」と言った彼らと別れ、静かな路地裏にはいる。

「俺は獄寺たちといまからメシ食いに行くとこ」
「ふうん」
「いきなり電話きてびびったぜ」
「迷惑だった?」
「いやぜんぜん!」

むしろうれしくてしょーがない!とか言ってみたんだけどひばりの反応は「そう」といつも通り薄かった。

「で、どしたんだ?なんかあった?」
「うん」
「?」
「あのさ」
「ん?」

ひばりはたっぷり数秒の間をおいて、さらにびっくりするような、これから先何世紀も聞けないだろうと思っちまうようなことを言った。

「あいたいんだけど」
「…ほんと、…なんかあったのか?」
「べつに。ただ、会いたいと思って」
「…やけに素直なのな」
「うるさい」
「はは、悪ぃ」
「ねえ」
「うん」
「会いにきてよ」
「うん」

うん、って。言ったはいいが、俺はいまイタリアに、ひばりは日本にいる。
でも特別忙しいってわけでもないし、獄寺たちには悪いが今から急いで本部に戻っていくつか仕事を済ませ、準備したら明日の朝には出られるだろう。
ツナにも悪いけど、こればっかりは頭をさげて頼み込んででも許可をもらいたかった。

めったに我儘をいわないひばりの望みはかなえてやりたいと思ってしまう。それが俺のワガママと重なるなら、なおさら。
なによりも誰よりも大切なひとのために。

「なあひばり」
「なに」
「愛してるよ」
「…そう」
「明日行くよ、必ず」
「…うん」
「だから待ってて。」

「うん、待ってる」、ひばりが発したその言葉が、じわりと俺の耳にはいって、全身をめぐった。


携帯を閉じて、急いで本部へ戻る。
明日には触れられるその体温を想像して、緩んであふれだした感情は抑えきれそうにもなかった。




たまにはあまいわがままを、言ってみせてよ。(110121)

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