風が俺たちの頬をなでる。白みはじめた空に、海辺にふく風は、夜をこえてなにかを拐ってきたのかどこか甘いにおいがした。


ひばりがその、しろくてほそっこい手で海の水をすくう。


「ねえ」
「うん?」
「なにいろに見える?」


俺に向かって手を出して訊ねた。


「透明、じゃねーの」
「うん、そうだね」


ぱしゃ。ひばりの手から溢れた水は、あっさり砂浜におちて染みこんでいった。


「へんなひばり。」
「うん。」


うん、て。やっぱへんなの。
行くあてもなくふらりと歩きだしたひばりの後を、俺も黙ってついていく。


「なのに、なんで海は青いんだろうね」


ふしぎだと思わないかい。
珍しく饒舌なひばりは言った。


「空気だって透明なのに。」
「そうなー。」
「へんなの。」


なに言ってるんだよ、世の中にはしらないことなんてまだまだいっぱい、想像もつかないくらいたくさんあるんだ、きっと。


「海はさ、」
「うん」
「俺たちがどのくらいちっぽけなのかを教えてくれてるのかもな。」
「…なにそれ」


君はおもしろいことを言うね、と笑ったひばりは、なぜかちょっとさみしそうだった。


俺がしらないひばりが笑ったんだ、いま。

潮風に目をほそめて再び歩き出したひばりの背中には、俺のしらない色がたくさん、たくさんにじんでいた。





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