目を瞑るとあざやかによみがえるのは、いつだってあのひとだ。
いつも吸っていた煙草のにおいとか、低くて心地いい声とか、たまにみせる笑顔とか、挙げたらきりがないんだけれど。

なのにいちばん最後の記憶だけはおぼろげで、無意識に忘れようとしているみたいに、すこしずつ薄れていく。
あのひとがどんな目で俺を見ていたか、どんな声でさよならを言ったのか、なにひとつ明確には思い出せない。




それから、もう5年も会わず、連絡さえとっていなかった。今度こそほんとうに最後の記憶が消えてしまいそうになっていて、美化された思い出だけが俺の中にぽっかり空いた穴を満たしていた、そんな頃に。

再会できたことを、奇跡と呼ばずになんと呼ぶのでしょうか、



「ひじかた、さん」
「おう、…久しぶりだな」
「…すこし、痩せましたね」


そうか?って笑う顔は、昔よりすこしやさしくて。

悲しかったはずの最後の記憶はついに思い出せなくなって、かわりに上書きされたいまという記憶が、じわりと心をあたためた。



101112
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