「…敵の領地で何してんだ」


喉が張り付いていたが、悟られたくなくていつも通りを装った。

だが、自分の心臓の音以外聞こえてないのだろう。

話しかけても言葉は返ってこず、小僧の呼吸のみが響く。

周りに広がる赤が、俺に現実を伝えていた。

いつも会話をする距離で止まっていた俺は、それを見て初めて、あいつとの距離をつめた。





小僧の真横まで歩いていき、ゆっくり手をのばす。

闘い以外で初めて触れる頬は雪の所為だけではない冷たさで、指先が震えた。

それを誤魔化すように抱き上げ胸に納める。


「…ぁ………」

「風邪ひくぞ?」


酷く間抜けなことを言っている自覚はあった。

風邪など、今心配するべきことではない。

今心配すべきは、この赤色。

こいつの服を染めていく、こいつの生きている証。

知ってた。わかっていた。今までの経験でもう結論は出ていた。

だからこそ、どうでもいい言葉しか出せなかった。


「お…さ、ん…が…見ぇ…だぁよ…」


途切れ途切れに聞こえる声は弱弱しく、もう時間がないことを如実に表していた。


「ばーか。本物だ。」


こんな時ですらおっさん呼びかよ。可愛げのねえ餓鬼だ。

そう悪態をついてやりたかったが、言葉にはならなかった。

それよりも、この残った僅かな時間に何を残そうか、そればかりを考えていた。


「やら、ちまったぁ、よ」

「ああ」

「おっさ…」

「なんだ?」





「ど…せな、ら

 あん、たに…殺さ…たかったべ…」





「………っ」


そう言う小僧に言葉が詰まった












  嗚呼…嗚呼…そうだな…俺も、





  誰かにお前を殺されるくらいなら





  俺が 殺したかったよ………










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