「あちーなぁ…もう夏だーヨ…」


滴り落ちる汗を拭いながら恨めしく空を見上げる。

雲ひとつない青空は清々しいが、この暑さは如何せん頂けない。


「これで初夏なんてありえねぇべ…」

まだ夏も始まったばかりで、これから暫くは続くだろう暑さにため息が隠せない。

少しでも涼もうとバイトへ向かう脚を速めた。


「お疲れ様でーす。」


先に更衣室に居たバイトの先輩に挨拶しながら一息つく。

店の中は思っていた通り涼しく、流れていた汗も収まった。

最近始めたバイトはファミレスの店員だったが正直正解だったと思う。

これからの猛暑を凌ぐには冷房が効いた店内は打って付けだし接客も嫌いじゃない。

標準語で話さなければいけないことが難点だが、話せないこともないので大した問題でもなかった。


「先行ってるからなー。」

「はい、すぐ行きます!」


先輩が俺の肩をポンと叩いて出ていく。

何気なく肩を見ながら何ヶ月も前に公園で会った人のことを思い出した。

ほんの少し話しただけの知らない人なのに、何故かひどく頭に残った。

自分と同じ名前の人を捜している知らない人。

あんなに必死に捜していたのだから見つかって欲しいと思う。

そして、出来ることなら笑っていてほしいと思った。





この暑さの所為なのか客足は途絶えることが無くあっという間に時間は過ぎていった。

ようやく客も落ち着いた頃には既に2時間が経っていた。

さすがにこれだけ忙しいと少し休憩したくなる。

しばらくお客が来なければいいのにと思いながら扉を見るとタイミング良く客が来た。

世の中こういうものだよなと内心ため息を吐きながら案内に向かう。


「いらっしゃいませ、お一人です…か…?」

「ああ」

「………」


黒いスーツに身を包んだ一人の男、目の前に居るこの客には見覚えがあった。


「………?おい、どうし…」


何も言わない俺にいぶかしんだ相手も顔を上げた状態で固まった。


「………お、お久しぶりです。」

「………ああ。」


お客はついさっきまで思い出していた、いつかの公園の人だった。




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