「おら、さっさと次の仕事に行くぞ。」
「あ!待って下さいよ先輩ー!」
冬の寒さにうんざりしながら雪の降り出しそうな空から目を反らし、次の仕事に向かうべく歩を進めた。
その反らした視線の先、ちょうど差し掛かった交差点の反対側に高校生の集団が見えた。
ほとんどが同じ制服を着ていたが、その中に一人だけ違う制服の奴がいる。
胸の内側が、ざわめく。
少し後ろ姿が似ているだけだ。今までもそういう奴はいた。
そう自分に言い聞かせるのに動悸は激しくなるばかりだ。
そして、其奴が横を向いた瞬間、俺の身体は思考と切り離された。
「先輩!!!!!!!」
交差点に飛びだそうとした俺を引きとめたのは白目だった。
「離せ!!見失っちまうだろうがっっ!!」
「先輩信号見えてないんですか!?引かれちゃいますよ!!」
気付けば、交差点の信号は赤になっており、車が目の前を通り過ぎていった。
「くそっ!あいつが行っちまう!」
「あいつって誰ですか!?先輩ちょっとおかしいですよ!?」
本当は今すぐにでも飛び出して行きたいのに車通りの多い交差点はそれを許してくれそうにない。
信号が変わってやっと渡れた時には人影はどこにも無かった。
「先輩、どうしたんですか…?」
白目が不安そうにこちらを見やるが、俺はそれどころではなかった。
あの横顔は…あれは確かに、あいつだった。
俺が焦れ続けた、ただ一人の餓鬼。
あいつは、この町にいる。
俺はあいつの横顔を脳裏に焼き付け、踵を返した。
「行くぞ…」
「え!?先輩!?大丈夫なんですか!?ちょっと先輩!」
白目に構う余裕は今の俺には無かった。
まだ仕事が残ってる今では捜すことは出来ない。
ならば、さっさと終わらせて捜すしかない。
大丈夫。大丈夫だ。きっと会える。
今すぐにでも駆けだしそうな身体を抑えながら、俺はその場を後にした。
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