ぴちゃん ぴちゃん

どこからか水の滴る音がする。

俺がここに閉じ込められてからどれくらいの時間が経ったのだろう…

ここにいると時間の流れがひどく遅く感じる。

数日なのか、数週間なのか、数か月なのか。

始めは数えていた月日も今やどうでもいい。

俺がここから出られる日は、一生来ないのだから。


「良い子にしてたか?」


取り留めもない思考を無粋な声が切断した。

凄さんがいない間の暇つぶしだったから問題は無いのだけれど。


「今日は遅ぇんじゃなかったのけ?」

「お前が心配でな。急いで終わらせてきたんだ。」

「オラがここから動けねぇの知ってるくせに。」

「それでもお前も忍者の端くれだからな。」

「端くれは余計だーヨ。」


凄さんと俺の距離は然程ない。ただ、素手ではどうしようもないくらい立派な鉄格子があるだけだ。

俺がいるのは牢屋。ここは地下牢。

凄さん以外誰も知らない、俺専用の籠だ。


「ほら、飯だ。」


そう言って差し出されたのは俺の晩飯だ。

すべて手を使わずに食えるものばかりが並んでいる。

俺は慣れた仕草で獣のように這いつくばりながらそれを貪る。

後ろ手に縛られているから手は使えないのだ。

始めは抵抗のあったこの食い方にも慣れた。

食えればみんな一緒だ。


「良い子だな、与四郎。」


満足そうに凄さんが俺に笑いかけた。


「ん」


凄さんの笑顔に弱い俺は気恥ずかしくなって無心で食べる。

他人が見れば狂気の沙汰に見えるこの関係も、二人しかいないこの空間では関係ない。

凄さんがいて、邪魔する人間も柵もない。

俺は幸せだ。


「ごちようさま。」

「おう。ちゃんと全部食ったな。」

「当たりめェだべ。動かなくても腹空くんだーヨ。」

「動いてねえわけじゃねぇだろ?」

「うっせぇ!!」


暗に性交のことを言われてつい顔が赤くなる。

何回も行為に及んでるとはいえ、やはり慣れないものは慣れないのだ。


「運動不足な与四郎くんのために俺が手伝ってやるか。」

「オラの為じゃねくて凄さんがしてぇだけじゃねーか!」

「お前だってしたいだろ?」

「………しらね!!」


そっぽを向いた俺に笑いをかみ殺した凄さんがのしかかる。

凄さんの手を感じながら、やっぱり幸せだと思ってしまったなんて負けた気がするから絶対言ってやらない。


「…んっ」

「与四郎…好きだ…」


ここにいると、凄さんが好きと言ってくれる。

それだけで俺には十分すぎるほどの価値があった。

意地を張るのを止めて身体の力を抜いた俺に待っていたのはただただ幸せな時間だった。











ぴちゃん ぴちゃん

今日もどこからか水音が聞こえる。

凄さんが来なくなってどれくらいの時間が経っただろう。

あの日から、凄さんはここに来なくなった。

嫌われたとは思わない。

凄さんが俺を愛していたことは疑いようもない事実だったから。

もしかしたら、ひどい怪我をしてしまったんだろうか。

それだけが心配だ。

俺はここから出ることはできないから、凄さんの安否を確認する術は無かった。

自分の身体も衰弱してしまっていて、無理矢理外に出ることも出来そうにない。

する気もないのだけれど。

凄さんが生きているならどんな状態でもここに来てくれる。

来ないならそれはもう…

だったら自分も生きている意味はない。

俺はただ凄さんを信じて待っていればいい。

そう考えて体力を消耗しないように俺はまた眼を閉じた。











ぴちゃん ぴちゃん ぱしゃ


「………?」


あれからまた少し時間が過ぎたころ、ひたすら聞こえていた水音に混じって別の音が聞こえた。


「…すご、さ…?」


声を出すのも久しぶりで擦れた声しか出ない。


「………頭じゃなくて悪いな。」


そこにいたのは凄さんの部下だった。

それだけで全てを理解できた。

凄さんがここに他人を寄越すなんてありえないから。

部下の手には大きめの箱があった。


「全身は、無理だった。でも頭からの最期の命令だからこれだけでも届けに来た。」

「そ…か…あり、がと……」


鍵を開けて凄さん以外の人が入って来る。

でも今回だけは凄さんも一緒だから許せる。

早く、早く会いたい。


「すご、さ…」


もう殆ど動かない身体で懸命に凄さんに近づく。

部下の人が箱を開け中から取り出したのは、首から上だけになった凄さんだった。

これだけでも持ち帰るのは大変だっただろうに、この人はここまで届けてくれた。

凄さんはいつも愚痴ばかり言っていたが、やはり凄さんの部下だけあって優秀だ。


「す…ごさ…凄さん!凄さん!」


でももう俺には部下の人は見えていなかった。

見えているのは凄さんだけ。

やっと会えた。ずっと会いたかった。

部下の人は俺のすぐそばに凄さんを置いてくれると俺の手の縄を切ってそのまま出ていった。

俺はひたすら凄さんに話しかけていた。


「遅ぇ、じゃんかよう…」

「オラずっと待ってたんだーヨ?」

「もう、どこにも行かねぇ…よ、な」

「ずっと、いっしょ…」


凄さんを抱きしめながら目を閉じる。

これでやっと誰にも邪魔されずに二人きりだ。

幸せ過ぎて涙が流れた。






 永遠の抱擁を貴方と




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