第6話

勢いよく振り返るフィール。
キッドと目があった瞬間ビックと、肩が小さく揺れた。
フィールは慌てて、視線を逸らすと動揺を隠しながら喋り出す。

「…お…お頭…」

しかしフィールは、キッドの気迫に負け一歩後ずさった。

「テメェ…勝手に突っ走るなと何度言えば気がすむ。」

「あっ…いや、えっと……すみません。」

項垂れるフィールの姿を見たキッドは、小さく溜め息を吐いた。

「さっさと、船に戻るぞ。」

フィールの手首を掴み歩き出した。
突然歩き出したキッドに、引っ張られるようにして歩き出す。
『あっ』とフィールは、思い出したように振り返り依然として同じ場所に立っていたローを見た。

「トラファルガー、ありがとう。」

言い終わるのと同時に角を曲がりローの姿は見えなくなった。
船に向かって歩く二人の間に会話はなく、重い空気を纏っていた。
重い空気に絶えきれなくフィールは、フッと視線を下に落とした。
その視線の先には、見覚えのある紙袋が握られていた。
少しひしゃげたその紙袋は、ナハトを追いかける際に落としたモノだった。

「その、紙袋…」

フィールは、無意識に呟いた。

「テメェが落として行ったんだろうが。」

何も言えずフィールは、シュンッと項垂れた。

「フィール、お前…何持ってやがる。」

と腕の中にいるナハトの事を聞かれた瞬間バッと頭を上げ、満面の笑みを浮かべた。

「お頭見て下さい。
可愛いでしょナハトって言うんです。」

手首を掴んでいたキッドの手から、スルリと抜け出すと前に周り込みナハトをキッドの目線近くまで上げた。

「船で飼うつもりかソイツ。」

「はい、そのつもりですよ。」

先ほどまで落ち込んでいたのが、嘘のように嬉々としていた。『はぁ』とキッドは、大きく溜め息を吐く。

「大丈夫です、私がきちんと世話はしますから。」

「誰も良いなんて、言ってねェだろうか。」

「えっ…駄目なんですか!!」

目に見えてフィールのテンションが急落下していった。

「本当に…駄目ですか?」

おずおずと下から見上げる瞳は微かに潤んでいるようにも見えた。
ジッとお互いそのまま一向に動かず数分の間そのままだったが…
盛大な溜め息とともに先に折れたのは、やはりキッドだった。

「好きにしろ。」

「お頭、有り難うございます。」

嬉しさの余りスキップをしながらまた、別の方向に行きそうになったのをキッドは慌てて止めた。

「フィール次に勝手に突っ走るなら、首輪付けて繋ぐぞ。」

と言い放たれフィールは、盛大に肩を揺らした。

「いや、それはちょっと。」

慌てるフィールの手首をまた掴みキッドは、止まっていた歩みを進めた。
暫く歩いているとフィールは、普段の寝不足と先ほどの戦闘で体力を使ったためかウツラウツラと船を漕ぎ始めた。
それに気づきキッドは、歩く速度を早めた。

「おいッ、こんなとこで寝るな。」

『…う…ん。』とフィールは、生返事を返した。
それにキッドは、何度目かの溜め息を吐くと…
次の瞬間フワリとフィールの体が中に浮いた。
キッドは、フィールを俵のように抱き抱えた。
抱き抱えられた本人は、少し苦しそうに顔を歪めたが直ぐに元に戻り微睡み出した。
それから暫く歩き日が傾きかけた頃、ようやく二人と一匹は船に着くことが出来た。
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