この刄が君に向かぬよう

ほぼ同時に届いた二通の書状。
内容を読んだ瞬間、頭の中が真っ白になり思考が停止してしまった。
回りに居る大臣達が怪訝な顔で、此方を見ていたのに気づき私は慌てて内容を伝えた。

「陛下、ここはやはり帝国からの書状を優先すべきです。」

「そうです…陛下隣国には、悪いですがここは帝国と同盟を結ぶべきです。」

内容を知ると大臣達は、口々にそう告げた。

「帝国の申し出を断れは、我が国に敵兵が挙兵してくる。
だがらと言って、同盟国である隣国を裏切るのは…」

「陛下事は一刻を争う事態です、賢明なご判断を。」

「解っています。」

彼等の言う事がこの国にとって、最良の道なのだと理解はしていた。
けれどその選択を私は、選びたくなかった。

「入るぞ。」

その時、行きなり開いた扉。
視線を向けるとそこには、近衛兵長であるキラーの姿があった。

「キラー、どうしたのです。」

「たまたま前を通ったら話しが聞こえてな、何を迷ってる。」

「迷ってなど。」

「なら早く指示を女王陛下。」

彼の声、姿が私の背中を押してくれる気がした。
私は、迷いを断ち切るために言葉を紡ぐ。

「解っています…隣国に援軍を送り、帝国軍を迎え討ちます。
直ちに援軍と迎撃準備をなさい。」

決意が揺るがぬように、机の上に置いてあった帝国からの書状を破り捨てた。
しかし決意とは裏腹に、微かに手が震える。
不安を与えぬよう必死に毅然とした態度に努めた。
大臣達が出ていき、キラーも後に続き出て行くのだと思っていたがいっこうに出ていく気配が無かった。

「キラーどうしたのです、早く準備に向かいなさい。」

時が立つにつれ、大きくなる手の震えに気づかれないようにギュッと押さえた。
不意に呼ばれた名前。
そして次に来た、暖かい温もり。

「大丈夫だ。」

キラーは、幼子をあやすように私の背中を優しくポンポンと叩いた。
暖かい温もりに涙が零れそうになったのを必死に堪えて口を開いた。

「違う…私は、怖いのです。
私の下した判断が間違っていたら。
兵士達だけでなくこの国の民まで、危険にさらしてしまったらと…」

自分より幾分か、背の高いキラーを見上げ胸の内を告げた。

「これが、甘えで弱さだと理解してます。」

一筋の涙が頬を伝った。
一度流れ落ちた涙は、止まる事はなく次々と溢れた。
その涙を大きな手が優しく拭った。

「この刄が女王陛下に向かぬようにする。」

『だから、心配するな。』と言い、私を落ち着かせるようにギュッと抱き締められた。

「…私は、至らぬ女王ですね。
もっと毅然とせねば、なりませんね。」

溢れてくる涙を、手の甲でグッと拭った。

「もう何があっても弱音は、吐きません。」

私は女王だから、私の不安が皆に伝わらぬようにするために毅然とした、立ち振舞いを心に決めた。

「キラー、直ちに準備に向かいなさい。」

私は、温かい温もりから離れ冷たい椅子に腰を下ろした。

「了承した、女王陛下。」

キラーは、そう言うと扉に向かい歩き出した。
私は、ジッとその背中を見つめた。
そして、扉が締まりそうな瞬間…

「自愛を忘れずに、武運を…願っています。」

パタンッと閉まった扉、一人になった執務室で私は皆の無事を願わずにはいられなかった。
彼が言った言葉が、頭から離れず。
だから、私は決めたのだ…


二度と大切な人に刄が向かぬようにと



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