崩れ落ちた世界

※死ネタ

静かな朝に響いた、哀しげな怒声。
その声は、フィールの部屋から響き聞こえていた。
部屋に置かれているベッドの中には、フィールがいた。
血の気が引いた、蒼白い顔。
それに相反する紅が、手首から滴り落ちシーツと床を染めていた。
部屋の中には、キッドとキラーの二人がいた。
他のクルー達は、開いたドアから中の様子を伺っていた。

「…なんでだ、フィール。」

先程聞こえていた怒声とは違い、弱々しい声だった。
キッドは、そっと温もりの失われたフィールに触れた。
その様子を少し離れた場所から、キラーが居たたまれない様子で見ていた。事の始まりは、数日前…
敵船との交戦中の出来事だった。
勿論その中には、キッド海賊団の戦闘員でるフィールの姿もあった。
敵の流れ弾、数発が彼女に命中してしまったのだった。
一命は取り留めたものも、銃弾は脊髄を損傷し下半身を動かす事が出来なくなってしまった。
数日後、目を覚ましたフィールは自分の体の異変にいち早く気付いた。

「……足が…動かない?」

フィールの呟いた言葉が虚しく部屋に響いた。
始めは、傷の痛みのせいで足を動かす事が出来ないのだと思うようにしていたが…
次第に傷の痛みも引いてきた頃には、確信していた。
自分の足がもう、動かせない事に。
足を動かす事の出来ないフィールの生活は、一変した。
一日中ベッドの上で過ごす毎日だった。

「何で私は、此処に居るんだろう…本当なら皆と一緒に鍛練したりしてる筈なのに。」

そう言ったフィールの目には、うっすらと涙が滲んでいた。

「……どうしてよ。」

呟いた瞬間、コンコンッとノックの音が部屋に響いた。
フィールは慌てて、滲んでいた涙を拭うと『はい。』と返事をした。
ゆっくりとドアが開いた。
開いたドアから、姿をを表したのはキッドだった。
キッドの手には、フィールの食事が乗ったお盆が握られていた。

「フィール、メシ持ってきた。」

と言いゆっくりと、フィールに渡した。

「ありがとう。
今日はキッドなんだね、昨日はドレッドでその前はキラーで…」

またフィールの目に涙が滲んだ。
必死に泣くのを我慢したが、ついに溢れだし大粒の涙が頬をつたった。

「どうした、フィール。」

キッドは溢れでるフィールの涙を拭おうとしたが、その手は彼女によって叩き落とされた。

そして…

「……もう、やだ……こんな惨めな、自由じゃない生活なんて嫌。
私は、自由な海賊の筈なのに。」

叫び声と共にガシャンと食事を投げ捨てる音が響いた。
我を忘れたかのように『イヤイヤ。』と何度も叫ぶ声が部屋中にこだました。

「フィール落ち着け、おいフィール。」

キッドは、フィールを落ち着かそうと何度も彼女の名前を呼んだ。
そして段々落ち着きを取り戻した。

「フィール大丈夫か?」

「えぇ…キッド、ごめんなさい取り乱して。
でも、もう大丈夫だから…けど一人になりたいのお願い。」

とフィールが言うとキッドは、心配そうにしながらも部屋を後にした。
そして部屋に一人っきりになったフィールは、フッと床の上で無惨に割れた食器が目にはいった。
そっと手を伸ばし尖った破片を手に入れた。

「ごめんなさい、弱い私で…」

と言ったと同時に深く突き刺し、手首を切った。
切口からは、ドクドクと紅が溢れ白いシーツを染めた。
そのままゆっくりと倒れ、ベッドに体を沈めた。
最後に愛しい人の名前を『キッド』と呼びらながら一人静かに息を引き取った。





「フィール、そんなに辛かったのか。」

彼女の涙を流した、痕のある頬に優しく触れながら…
言ったキッドの憂いを含んだ、声が静かなフィールの部屋に響いた。



(fin)

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