指先だけでそっと

賑やかな酒場。
そこには、キッド海賊団の姿があった。
周りには、胸元の開いた艶やかなドレスに甘い香水を纏った綺麗な女の人達がいた。
賑やかなテーブルから離れた所に、キラーが一人酒を呑んでいた。
コップに入っていた、酒を一気に呷ると席を立ちキッドに近寄った。

「キッド。」

「キラーか、何だ。」

「先に船に戻る。」

と言うとドアに向かって歩き出した。
ドアを開け外に出ると、外はしずしずと霧雨が降っていた。

「雨か…」

ポツリッと呟くと、船が停泊している場所を目指し歩き出した。
しずしずと降る雨は、少しずつキラーの体を濡らしていった。
雨が降っているためかキラーは、足早に船を目指していた。
そして、船が停泊している場所に着くと船に上がり甲板に降り立った。
誰も居ないと思っていた、甲板に人影を発見した。
後ろ姿だったが、キラーには誰だけすぐに分かった。


「フィール…」

呟くとゆっくりとキラーは、フィールに近づいた。艶やか黒髪が雨でしっとりと濡れ、濡れた服が体に張り付き華奢な体を余計に際立たせていた。
後ろから近づいてきた気配に気づきフィールは、慌てた様子で振り返った。

「誰…って、キラーさん、もう帰ってきたんですか早いですね。」

そう言いフィールは、微笑んだ。
キラーには、振り返り微笑んだフィールの顔が、雨に濡れまるで涙を流しているように見えた。
無意識にフィールの雨で濡れた冷たい頬に、そっと指先だけで触れた。

「キ…キラーさん?」

名前を呼ばれ自分がフィールに触れていることに気づき慌てて手を引いた。

「すまなかった。」

「いえ、気にしてませんから。」

「フィール。」

「何ですか?」

「体が冷えているぞ、風邪をひく部屋に戻ったほうが良い。」

「そうですね、では戻ります。
キラーさん、おやすみなさい。」

「あぁ、おやすみ。」

部屋に戻るフィールの後ろ姿を見つめていた。
キラーは、一人甲板に佇みフッと先ほど自分がフィールの頬に触れた手を見た。
雨で体温を奪われた頬は、冷たくけれど柔らかな感触だった。
その感触がまだ指先に残っているような錯覚に陥っていた。

「泣いているのかと…思わず触れてしまった。
はぁ…フィールに好きだと言えれば…」

と呟いた言葉は、静かな闇に吸い込まれていった。


指先だけでそっと君の濡れた頬に触れた…



*お題サイト確かに恋だった様より
『君に、触れる』

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -