だからそろそろ機嫌直せって

まっすぐな君




 ラインアーサと喧嘩をした日から三日程経った。

 三日の間、挨拶はおろか顔すらも全く合わせなかった。今まで喧嘩をした事がなかった訳ではないが、ここまで長引いた事はない。
 たった三日だが、気まずい関係のままどんどん時間が過ぎてゆく気がした。

「ねえおにいちゃん。まだアーサさまとケンカ中?」

 朝食を終えたジュリアンにリーナが問いかけてきた。

「うーん? そんな喧嘩って言う程でも無いんだけどな」

「でも、アーサさまなんだかやっぱり元気がなくて……」

「んー、そりゃあ朝飯の食べすぎなんじゃないか?」

「もー! アーサさまはおにいちゃんとはちがうんだからね!」

 妹に余計な心配をかけまいと、少しふざけただけなのだがリーナは怒りながら行ってしまった。

「はあ。確かにこのままってのは駄目だよな…」

 何の気なしに中庭に足を向ける。
 相変わらず秋晴れの空が拡がる中庭。お気に入りの木陰の下に腰を下ろして木を見上げる。ざわめく葉や幹の間から刺す木漏れ日の光に瞳を細めた。

 ふと耳に風を切る様な規則正しい音が聞こえてくる。ジュリアンは何となく低い姿勢のままそっと音の方へ近づいた。

 音の正体はラインアーサが一人、剣の素振りをしているものだった。その様子を木陰からただ静かに伺う。

 すらりと伸びた背筋、凛とした横顔。上から下へ真っ直ぐ降ろされる太刀筋にはラインアーサの素直な性格が表れている。

 三日間、全く会っていない間にもこうやって一人で鍛錬をしていたのだろうか。元々筋がいい為、剣を握る姿はとても様になっている。
 本当にこのまま剣の道を極められたら敵わないとジュリアンは思った。

「……ねえ。気が散るんだけど、さっきから」

 ラインアーサはぴたりと素振りの手を止め此方を向いた。

「よっ! アーサ。気づいてたのか」

「そりゃあ気づくよ…」

「何だよ、まだご機嫌斜めなのか?」

 ジュリアンはそう言いながら立ち上がり木陰から出ると、ラインアーサと向かい合う。

「っ…べつに。……ジュリは何しに来たの?」

「俺? 俺は、お前に会いたいなあってぶらついてたら足が勝手にここに向かっててさ。このひっろい王宮の中で待ち合わせもしてないのに会えたのって凄くないか? 俺!」

「な、何言ってんの。なに馬鹿な事…」

「おう、俺は馬鹿なんだ。だからそろそろ機嫌直せって」

 少しおどけて見せる。


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