俺がそうなればいいんだ!
かたくなな君
「そう……なればいい?」
ジュリアンの胸中を察してかグレィスは瞳を強くのぞき込んでしっかりとした口調でもう一度繰り返した。
「そう。お前がなればいいんだ」
その言葉はジュリアンの中へとそのまま降り注ぐ様に降りてきた。
「──そっか。なんだ、簡単じゃん! 俺がそうなればいいんだ! ありがとう父さん。俺やってみる!!」
「おう! あ。おい、急に立つなってあぶな…」
ざばりと湯しぶきたて跳ねる様に立ち上がると目の前がぐらりと風呂場の景色が反転する。立ちくらみだ。
平衡を失い頭から湯船に突っ込む寸前、グレィスに支えられ事なきを得た。
「ご、ごめん父さん……ありがと」
「ったく大丈夫かあ? しっかりしろよ」
続いて立ち上がったグレィスに背中をばちんと叩かれる。
「っぃって!!」
「はは、油断大敵ぃ! まあ頑張れよ。父さんも応援するからな。じゃあお先〜」
じんじんと脈を打つ背中の痛みに悶絶していると、グレィスは先に風呂から上がっていってしまう。その大きな背中を見つめ、ジュリアンは咄嗟に声をあげた。
「父さんっ!!」
「うん? どした?」
「父さんに頼みがあるんだけど…! 俺……」
それ≠口にした瞬間、風呂場の空気が止まったかの様に感じた。
立ち込める湯けむりの中、振り向いたまま驚きを隠せない表情のグレィス。しかし直ぐに真面目な顔つきに変わり、返答をくれた。
「お前が本気なら、俺は大賛成」
「ほんと!?」
「ああ。その代わり、まず母さんやジュストベルじい様を説得する所からだぞ?」
「わかってる! ずっと悩んでたけどやっと答えが見つかったんだ。絶対にやり遂げる!!」
「そっか! なら安心だな。ったくほんとお前は俺に似たんだなぁ」
垂れた目元をさらに下げ、何時もより嬉しそうに笑うグレィスを見てジュリアンも安堵した。
風呂から上がりさっぱりとした気持ちになったジュリアンは早速、母のサリベルを説得した。その途中で帰ってきたジュストベルも交えて家族会議。
初めは戸惑っていた母も、途中厳しい意見を挟んだジュストベルもジュリアンの決意に賛成の意を示してくれた。
一番納得の行かない顔をしていたリーナだが、ジュリアンの意志が硬いと分かると泣き顔になりつつも頷いてくれた。
最後が一番の問題だ。
あのかたくなな主を説得する事が出来るだろうか。
いや、これは絶対に互いの為になるのだとジュリアンは頭の中で何度も何度も説得する為の台詞を考えるのだった──。