もう少しだけ
かたくなな君
「うん。ジュリがそう言ってくれて俺、すごく嬉しいよ! いつもこうやって付き合ってくれてありがとう。俺頑張るよ!」
───また新たに気合を入れ直した二人は、ジュストベルの授業はもちろん、日々稽古に勤しんだ。
ほんの少しラインアーサと距離を置きつつも完全に離れる事が出来ないジュリアン。あれ以来ジュストベルからは何のお咎めもなくやり過ごしていたが、心の隅にずっと居座り続ける何かがあった。
もう少しだけ≠ニ自分に言い聞かせる。
そうして鍛錬を重ねた甲斐もあり、ラインアーサの剣の腕は見違える程良くなっていった。未だにジュリアンから一本も取れないのは大目に見るとしても、以前のラインアーサとは比べ物にならない位目に見えての成長ぶりだ。
そろそろ引き際だ。
いつも通り稽古を終えた後、浴場で汗を流している最中。ついにジュリアンは切り出した。
しかし思いのほか反発の声が上がった。断固たる決意の篭もった声でラインアーサは反発してくる。
「っ嫌だ! 絶対やだ!!」
「アーサ、お前さぁ。そんなに思いっきり嫌がるなよ! だって俺はもうお前に教える事何もないもん」
「っ…」
「俺だってまだまだ修業中の身だし、更に上を目指してる訳だけどさ。それにアーサが俺から一本も取れないのは気持ちの問題だと思うぜ?」
「でも俺はまだジュリから教わりたい!」
「だからー。これ以上本格的に剣の道に進むならちゃんとした剣術の先生に教わるべきだって」
あまり深刻な雰囲気にならない様務めて、在り来りな理由を付けた。
それでも黙り込んだラインアーサは湯の栓を止めると静かに切り出した。
「……じゃあ…、もうジュリとはこうして稽古出来なくなるのか?」
「っ…そんな事、でも俺はさ…」
今にも泣き出しそうな顔のラインアーサを見て言葉に詰まった。
「……一緒に頑張ろうって、今までやって来ただろ…? ジュリはもう俺に教えるの嫌になったの?」
「違う! 違うんだって、俺はただ…お前の足でまといになりたくなくて……」
「何だよそれ! 足でまといなのは俺の方だろ? 初めは剣も満足に構えられなかったもんな」
「アーサの事足でまといだなんて言ってないだろ! ただもうそろそろ潮時かなって…」
実際、二人の剣の腕はその辺の大人よりも上だろう。
「っ…何だよ……そんなに迷惑だったんならもっと早く言ってくれれば良かったのに」