げ、バレてたのかよ…
かたくなな君
適当な返事を返したジュリアンにラインアーサの溜息は深くなる。
相変わらず真面目で優しい主である。この後決まってこう言うはずだ。
「ジュリのこと心配で言ってるのに…」
「ほらね」
「何がほらね、だよ!」
「あっはは、何でもないって! じゃあ俺もそろそろお暇するぜ」
まだ納得していない顔のラインアーサを横目にジュリアンは部屋の外に出た。
「ジュリ、夕方の稽古忘れてないよね?」
「ああ。いつもの場所でな!」
今度はご機嫌で返事をする。ジュリアンはそのまま勢いよく踵を返しラインアーサの部屋を後にすると軽快に廊下を駆け出した。
鬼の様な祖父、ジュストベルの説教から逃れられたのでしてやったりな気分だ。
休日を満喫するべく夕方の稽古まで何をして過ごそうかと弾む心で廊下の角を曲がった所、思い切り顔面を何かにぶつけた。
「っいて! ……!!」
何にぶつかったのか確認するまでもなく強烈な既視感に襲われる。恐ろしくて顔を上げられずにいると頭上からさも優しげな声が降ってきた。
「……さて、廊下は走っても良いのでしたかな? ジュリアン」
「ごめんなさい、、ジュストじい様…」
「いい加減その台詞、聞き飽きましたぞ」
「っう……だって今日は休日なんだし多めに見てよー!」
「何を言うのかと思えば、全く。大方ラインアーサ様の部屋に潜んでいたのでしょう」
「げ、バレてたのかよ…」
「もちろん。あの限りでは隠しきれておりませぬ。そなたを庇った罪でラインアーサ様も同罪、という事でいいですね? 今から二人一緒に私の部屋で…」
「はあ!? アーサは何も悪くないって!! 俺がさっき部屋に押し入っただけだ…っ」
「ほう。それではジュリアン一人で私の部屋まで来てもらいましょう。ラインアーサ様はまた後日…」
「だからアーサは何も…っ…いってえ!」
脳天にジュストベルの鉄拳が落とされ、岩のように硬いそれはジュリアンの石頭に響いた。
「全く。予てよりその奔放な行動を慎みなさい。そなたの行動一つがラインアーサ様にどう影響するかきちんと思案すべきだとこの間も散々説いた筈です」
「ぃてて…っ……わかってるよ。そんな事くらい」
それは流石にジュリアンも感じていた。
先日の自分の安易な行動でラインアーサを危険に巻き込んでしまった事について、表には出さない様にしていたが実はかなり落ち込んでいたのだ。