俺たちこの風に助けられたのか?
やさしい君
その間。ラインアーサの癒しの煌像術により腫れは引き、指はすっかりと元通りになる。
「……よかった」
「ほんとごめんな。俺のサボりに付き合わせただけでなく、こんな危険な目にあわせて。次からはやっぱり俺一人で…ってアーサ?」
「…ぷ」
先程から俯いて黙っていたラインアーサだが突然肩を揺らして笑い出した。
「!! 何笑ってんだよ! 人が真面目に…」
「あはは、だって次って…! ジュリはまだまだサボるつもりなんだ?」
「あ、いや。まあ、それは」
「ジュリばっかりずるいぞ。今日は何だか色々あり過ぎたけど、ジュリと一緒に居てすごい楽しかった! 次も♂エの事誘ってよ……それにただ王宮に居るだけじゃ分からない事ってたくさんあるんだね」
いつもより少し大人びた顔つきで微笑を浮かべながら首を傾げたラインアーサ。不覚にもドキリとしたが負けじと口角を持ち上げてふふんと鼻を鳴らした。
「だろ? 城下の街や旧市街では毎日色々な事が起きてるんだぜ!」
「色々な事、そっか。それにさっきの奴らの事。早く帰って父様に知らせないと」
「そうだな、もしかしたら俺たちやばい情報掴んじゃったのかもしれないぜ? てか奴ら人の国を田舎田舎って散々馬鹿にしやがって。忘れないからな!」
「まあ、本当の事だけどな…」
「シュサイラスアは、あらゆる人が住みやすいようにって陛下が尽力して統治して下さってる最高の国なんだぞ! その良さが分からない奴は二度と来なけれいいんだ」
「ジュリ、ありがとう」
「まあ、ほんとの事だからな!」
考え込むラインアーサとは対象的にジュリアンは大好きな自国を貶されて憤慨だと言わんばかりに熱弁した。その熱意に若干照れたラインアーサがはにかんだ。
「急いで王宮に戻らなきゃ」
「だな。余裕で明るい内に戻れるぜ」
崖から落ちた事で、幸いにも旧市街へ降り立つことが出来た。此処からならば王宮までそう遠くはない。
逸る気持ちを表す様な一陣の風が吹き抜け、大地を巻き上げた。
「わっ…!」
「すんげぇ風だな! 俺たちこの風に助けられたのか?」
「うん。……風の加護に感謝だね」
「ああ! よし、そろそろ…って……んん? なあなあ、彼処に小さく見える超おんぼろなんだ?」
絶壁が作る洪大な影の最奥に、ひっそりと佇む古めかしい屋敷の様な建物が小さく見えた。およそ人が住んでいるとは思えないほどの廃墟だ。