俺の役目は、主を守る事なんだよっ

やさしい君


「ほら、引き上げてやるから捕まれよ」

「ん……ありがとう」

「にしてもさっきの奴らは何処に消えたんだ? もうこの階段には気配すら感じないんだけど。……もしかして本当にお化けとか?」

「まさか。俺はお化けなんかよりも蜘蛛の方がよっぽど…っ!?」

 ジュリアンの手を取り必死に崖をよじ登るラインアーサの目の前に、先程よりも一回り程大きな蜘蛛が頭上からツゥと糸を垂らし降りてくる。
 そして蜘蛛は狙ったかの様にラインアーサの顔面に着地した。

「……あ、まずいなこれ」

「………」

「お、おいアーサ?」

「…っ…む…」

「む?」

「…っ…っああああぁぁ!!!!」

「ちょ、アーサ落ち着けって! 暴れるなよ、取ってやるから!! っておい危な…」

 これでもかと言うくらい必死に頭を降って蜘蛛を落とそうとするが、ラインアーサが頭を激しく振れば振るほど執拗にしがみつく蜘蛛。

「っ…とれな…っ取れない!! なんでっ?!」

「まじで落ち着けってば! ほら、何やってんだ……今取ってやるから…ぃって!!」

 何とか蜘蛛を捕まえたが掴んだ瞬間に指を噛まれた。毒は無いと分かっていたがそのチクリとした痛みと衝撃に迂闊にもラインアーサの手を離してしまった。

「っ…!!」

「しまった……アーサ!!」

 すぐ様手を伸ばしたもののすんでのところで届かずジュリアンの手は空を切った。
 ラインアーサはそのまま後方へ、もとい谷底へと吸い込まれてゆく。

「まじかよ」

 呟くのと同時にジュリアンは地面を思い切り蹴った。
 勢いを着けたのが幸いし、落下しながらもラインアーサに追いついた。

「ッ…ジュリ!」

「アーサ! 手ぇ伸ばせっ!!」

 激しい空気抵抗を受ける中今度こそしっかりと手を取り強く握る。

「…っ馬鹿! なんでジュリまでっ…」

「そりゃ俺の台詞だ馬鹿! 俺の役目は、主を守る事なんだよっ」

「役目とか…っそんなの…」

 どうする? 考える間もなく急降下する身体。もはや地面は目前に迫っている。

 間に合わない。
 そう悟るとジュリアンはラインアーサの頭を抱きかかえ、守る様にして身を丸めた。

「駄目だ……アーサだけでも、無事に…っ」

「何言ってんだ馬鹿! 馬鹿ジュリ!! 離せ! 離せったら!!」

 何を言われようと離す訳にはいかない。例え命を落としても主の、ラインアーサの命にはかえられないのだ。


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