やばい。そろそろ限界
やさしい君
「幽霊など居やしませんのにねぇ。シュサイラスアの民たちは随分と純粋なのですね」
「単に愚かなだけだろう」
途切れがちだがそんな会話が耳に入る。声の主らは誰なのか分からないがその内容からこの国の者では無いと推測出来る。その上、例の噂の発信源らしい。
「まあお陰様でこの停車場の使用頻度は更に下がり、今やこの有様。しかもこの古い駅舎の奥になど誰も来やしません。内緒話には打って付けです」
「……そうだな」
「こんな所を他国の主要人に見られでもしたら一大事ですものね」
「……」
どうやら居てはいけない現場に遭遇してしまったのだと、会話を聞きながら二人は息を飲んだ。
そんな中ジュリアンは限りなく小さな声で発言した。
「……おい。俺たちやばい状況置かれてるっぽいぞ」
「そ、そのくらい。俺にも分かるよ」
「ぜったい物音立てるなよ?」
「ん…」
子ども二人がぎりぎり乗れるかの小さな崖の足場に緊張感が漂う。
コツリと頭上に靴音が近づき、更に気が張り詰める。
「それにしても何と深い谷底…」
「やめておけ、落ちても知らぬぞ」
「……私だってこんな田舎の国で命を落としたくは無いですよ」
「……それで? 何時まで焦らすつもりだ? 早く本題に入れ。出来るのか、出来ないのか。簡潔に答えろ!」
「……まあそう事を急がずに…」
「答えぬのか?」
「……っ」
「ならば数秒後、お前の身体はこの谷底の地面の上に横たわる事になるな」
「っ…で、出来ます…っ」
「……くくっ…漸く認めたか! 今一度聞く。本当に出来るのだな?」
「…は、い。間違いなく出来ます。で、ですが…」
「何、出来るのなら構わぬ。直ぐにでも帰るぞ。もはや斯様な田舎の国になど用は無い」
話が纏まったのか帰るらしい。しかし夕方までここの停車場に列車は止まらない。どうやって帰るのだろうか。そもそもこの会話の主らは一体何処から来たのか。
列車を降りた時はジュリアンとラインアーサの二人以外に誰も居なかった筈なのだ。
しかし現状、確かな話し声がその存在を肯定する。
ない頭脳を使いあれこれ考えるも全く分からないが、帰ると言うのならば今すぐにでも帰って欲しい。と言うのもそろそろこの状況が辛くなってきたからだ。
心許ない足場。岩を掴んでいる手も次第に痺れてきた。それはラインアーサも同様らしい。
「やばい。そろそろ限界」