とりあえず降りてみるか

やさしい君


 使われなくなってから長く締め切られた駅舎の奥は空気が濁っており、歩くだけで埃を舞いあげる。吸い込まない様に口元を袖で覆いながら更に奥へと進んだ。

 ラインアーサの放つ光を頼りに古い石造りの階段を発見するが階段の数段下からは闇。吸い込まれそうな程の真っ暗闇だった。

「この階段、崖の下まで続いてるのかな…」

「さあ? 行ってみないことにはわかんないな」

 二人ともそこまで軟弱者という訳ではないのだが、先程の幽霊の件が頭の片隅にあるのはもちろん。この階段全体の雰囲気が如何にもと言った感じで躊躇する。

「…い、いく?」

「ああ。とりあえず降りてみるか」

 気が進まないが何もぜずに夕方まで列車トランを待つよりは良いはずだ。元よりじっとしているのは苦手なのだから。

 ラインアーサが先頭になり足元を照らしながらゆっくりと降りてゆく。

「……気をつけてね、この階段結構急だ…っぎゃ!!」

「どうした!? 大丈夫かアーサ!」

「っ…っつ! か、顔に、く、蜘蛛の巣が…」

「なんだよその位」

「そのくらいじゃあないよ! 巣が張ってるって事は……く、蜘蛛も居るってことだろ?? 俺もう、むり…」

 情けない声をあげて今にも泣き出しそうな主の顔に付いた特大の蜘蛛の巣を払ってやる。

 ラインアーサは蜘蛛が大の苦手だった。

「無理ってあのなぁ、お前はお化けよりも蜘蛛のが怖いのかよ…」

「奴のが怖い! きもちわるいし!!」

「はいはい。じゃあ俺が先に行くからお前は後から足元照らせよ?」

「え、まだ行くの!?」

「あたりまえだろ」

「うう、奴と遭遇しませんように…」

 蜘蛛に怯えるラインアーサを背に、ひたすら急な階段を降りてゆく。しかし何度目かの踊り場で二人とも弱音をはいた。

「はあ。どのくらい降りたんだ? これ際限なくないか?」

「ほんと、目が回りそう…」

 そう思わせる程に階段を降りてきたのだが、何処まで下れば良いのか検討もつかない。ラインアーサは壁に凭れるとそのまま屈みこんだ。
 ジュリアンは相変わらず下に続いてる闇を見つめた。

「……んー?」

「どうかした? ジュリ」

「なんだか下の方少し明るくないか?」

 ラインアーサは力なく立ち上がると階段の下の方を覗き込んだ。

「! ほんとだ、もしかして外の光かな?」

「行ってみようぜ」

 気力を振り絞る様にして二人で階段駆け下りる。


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