はぐれたらどうするんだよ
やさしい君
アダンソン家の名にかけて、それだけは絶対に嘘ではないという気持ちを伝えるべく身振り手振り両手を動かして見せた。
「ぷっ…あーもう。何いってんのかわかんないし、ジュリの動き可笑しすぎ」
そう言うとツボにハマったのか笑い出して止まらなくなるラインアーサ。
どんなにおちょくった態度をとっても最後にはそうやって笑顔を見せてくれる主には適わない。
ジュリアンはこの主に一生ついて行く、その為になら何を変えても構わない。と心の底から誓っていた。
───だからこそ判断しなければならない事があるのだと、後に痛いほど思い知るのだが。
断崖絶壁のテチラド。
谷深いその崖の今にも崩れ落ちるのではないかと思わせるほど際どい位置に建っている駅舎。その無人の停車場で列車は停止した。
躊躇せず列車から降りるラインアーサ。とりあえずその背中に続くがそのまま建物の中へと進んで行ってしまい焦りながら追いかける。
「ちょ、アーサ!」
「ん?」
「先に行くなって! はぐれたらどうするんだよ」
「俺たち以外に誰も居ないんだからはぐれようが無いだろ」
「そうじゃなくて勝手に居なくなるなって事」
「わかってるよ。ただ折り返しの列車の時刻を確認しとこうと思って…」
「ああそっか」
かつては賑わっていたいたであろう立派な石造りの駅舎。天井は高く、使用されずに埃をかぶっている照明器具や待合室の長椅子なども豪華な造りだ。
無人なだけあり、人の気配が全く感じられない。
「うーん暗くて時刻表が良く見えないな」
「だな、無人だからってこんな薄暗くて良いのかよ?」
「ちょっとまってて……えっと」
何やらラインアーサが指で空中に小さく陣を描く。するとその陣は掌の上でほの明るく光り続けた。
「お? 光の煌像術か。珍しく成功じゃん」
「珍しくとか言わないでよ! これくらい簡単なんだからな……って、、ねえジュリ…」
「何だよ」
「この時刻表って、正しいのかな」
「はあ? いくら無人でも時刻表なんだから流石に合ってんじゃねぇの?」
「じゃ、じゃあしばらくこの停車場に列車は止まらないみたいなんだけど……」
「はぁあ!? まじかよ! げ。ほんとだ……夕方までここには止まらないって事か?」
以前は通過の度に停車していた列車だが、今現在は利用者が減少し午前と午後に一度ずつの停車になっている様だ。