起きろアーサっ!!
やさしい君
「そういえば寝不足とか言ってたっけ。まあ、帰りにまた通るしそん時一緒に見ればいっか!」
やれやれと隣に座り直す。
暇を持て余し、ぼんやりとラインアーサの寝顔を眺める。
改めて観察して見るとラインアーサは中々に中性的な顔立ちだ。というかエテジアーナに似たのだろう、美しい王妃と生き写しの如く良く似ている。伏せられた長い睫毛に隠されている見事な瑠璃色の瞳は国王、ライオネルと同じ色彩。
焦がし砂糖を垂らしたような不思議な色合いで、少し長めの髪が列車の規則的な揺れに合わせてサラサラと揺れた。
まさに両親の優れた所を潤沢に譲り受けて産まれてきた天からの贈り物の様な王子。
そう思わざるを得ないと常々感じている。
「……お前男で良かったな。もし女だったら大変な目に会うかも」
そうぽつりと呟いたジュリアンだったが、隣で余りにも危機感の無い寝顔を見せているラインアーサに溜息を吐いた。
「ほんっとやれやれだな」
窓から入り込む柔らかい風が二人の髪を撫ぜる。
規則的な揺れと共にそんな想いに耽っていると、いつの間にか降りるべきである停車場が近づいていた。
「まずい。おい起きろ! もう夕凪の都だって!! 降りて折り返すんだろ?」
「ん、もうすこし……だけ」
両肩を揺すっても起きる気配のないラインアーサ。
「何がもう少しだ! おいってば!!」
「……」
そう言えばこの王子、元々低血圧気味の体質で一度眠りに落ちるとなかなか目覚めないので大変なのだったと後悔するジュリアン。仕方なく耳元で大きく叫んだ。
「起きろアーサっ!!」
ジュリアンの声が混み合う車両に響きわたる。と同時にしまった! と口元を抑えた。ついアーサという名を公の場で叫んでしまい、恐る恐る周りを見渡す。
案の定ざわつき始める乗車客。
「おい今アーサって聞こえなかったか?」「アーサってのはアーサ王子の事か?」
「まさかこの車両にアーサ殿下がいらっしゃるのか?」「ならば一目お目にかかりたい!!」
そんな囁きが辺りに飛び交う。
この国の民はこの様にすぐ様騒ぎ立てる賑やかな人種だという事を忘れていた。
このままではまずいとジュリアンはラインアーサの身体を引き寄せて頭を自分の膝に寝かせる様にしてさり気なく顔を隠した。更に……
「へ、へえ! なあ。近くにアーサ王子がいるかもらしいぜ…? 本当かな? 俺たちも一目見てみたいよな~……」