番外編 | ナノ
私から、メリクリ(前編)


終業式も無事終わった放課後、数学の成績がテラヤバスだった俺は、数学準備室に連行されて相坂先生と補習と言う名の拷問に耐えていた。
耐えている、けど、出来るならば俺が解答を書くたびに眉毛をピクピク動かしている先生に監視されている環境からも、意味のわからない問題文からも今すぐ逃げ出したい。

「折角のクリスマスイブなのに…」
「いいだろどうせ明日から休みなんだから」
「あぁ、なんで俺は終業式終わってまで勉強してるのかなぁ…」
「…、あのな、お前に付き合う俺の身にもなってみろよ?」

先生はそう言うけど、やっぱり気分は落ちるものだ。だって、今日は一ヶ月前から楽しみにしていたクリスマス・イブ!聖しこの夜!なんだ。本当なら今頃はみんなで部屋を飾りつけして碓氷の美味しい料理を食べて、げらげらと笑いながら話ししたりゲームしたりして聖なる夜を過ごしていた筈なのに。

こんな薄っぺらいお邪魔ペーパーに立ち塞がられるなんて…!

たかし君が袋から赤い玉を取り出す確率なんてどうでもいいし、問題文を読んでるうちに「袋から金色の玉を出すなら2分の2だね」って大友くんに変なことを言っていた倉谷の事を思い出すからちょっと平常心で解答に臨めない。

「先生、分からない…」
「…これさっき説明したよな?」

呆れたように溜息を吐いた相坂先生が、出来の悪い俺の為に時間を割いてくれている事を思い出して、素直に申し訳無くなってサーセン、と謝った。するとフッと力を抜くように笑った先生は俺の頭を撫でてからもう一度説明をしてくれた。

馬鹿な俺でも理解に苦しまないようにと簡単な言葉と例え話で説明してくれる先生は流石としか言えない。顔だけじゃなくて頭も良くて教え方が上手なのも人気の秘訣なのだろう。
ここ、男子校だけど。


最後の解答欄を埋めて、肺に溜まっていた空気を吐き出す。

「よっしゃ終わった!」
「埋めたか?」
「うん!これで帰れる!」

筆記用具を鷲掴み、「じゃ、相坂先生、さようなら!」とアバヨしたところでガシリと肩を掴まれた。なんだなんだと振り返れば、さっきまで解いていたのとは別の、まだ解答欄が真っ白の紙切れ。

自分の口元が引き攣るのが分かった。

「たった一枚で、終わるわけ無いだろ?」


◇◇◇


「先生めりくり!じゃあね!」
「良いお年を」

結局ぷらぷらと手を振る先生に別れを告げて学校を出たのは18時を過ぎた頃。
こんなに勉強したのは久しぶりだなとクタクタになって溜息を吐けば、白くなって冷たい空気に溶けていった。視線を下せば、うっすらと積もる白い雪。

「ホワイトクリスマスじゃん」

呟いた唇が冷たくなってきて、俺は短い帰路を急いだ。




「あ、山田さん!」
「栗島くん、いいところに来たね」

寮に着いたらダンボールを抱えた山田さんが部屋に入ろうとしているところを発見した。中身が気になって仕方がない俺は挨拶ついでに近寄る。

どうぞ、と開けられたドアをくぐり、暖かい部屋に入り、後ろから続けて入ってきた山田さんを振り返った。

「山田さん、それなに?」
「これね、去年の卒業生が要らないからってくれたの思い出して」

そう言いながら山田さんがダンボールを開く。ワクワクしながら中身を覗けば、そこに入っていたのは茶色い着ぐるみ。真っ赤なお鼻もある。

「トナカイ!!」
「うん。栗島くんよかったら貰ってくれない?」
「喜んで!」

笑顔で頷けば、よかった、と笑った山田さんが俺にダンボールを渡してきた。
俺はお礼を言ってから、ダンボールから取り出した着ぐるみを見て少し考えた。着ぐるみと言っても顔が出るやつで、赤い鼻は横から出ている紐を耳にかけてつけるタイプのもの。これは制服を脱いで着た方が良さそうだな。

「よっこらせ」
「え、栗島くん?」
「あ、これ着るのに制服は邪魔なんで脱ぐんです」
「ここでっ!?」

テキパキとジャケットを脱いでいれば山田さんが驚いたに素っ頓狂な声を上げる。ダメだったのかな?でも俺はこれを着てみんなを驚かせたいから山田さんにはちょっと悪いけどここで着替えさせてもらう事にする。
早く着替えてみんなのところに帰ろうと急いでベルトに手をかけた時、そそくさと部屋を出て行こうとする山田さんの背中に声をかけた。

「山田さんどこ行くの?」
「え、いや、栗島くん着替えてるからちょっと出てようかなって」

おかしな事を言う山田さんに首を傾げた。

「俺男だから何も気にしないよ?」
「いや、まぁそうなんだけど」

うだうだと何か言っているやまださんをよそにカチャカチャとベルトを外してズボンを脱ぐ。部屋は暖かいけど素肌は寒いので、急いでトナカイの着ぐるみに足を突っ込んだ。

「おお、いい感じっ!」

腕も通して鼻を付け終えたところで、見て見て!と後ろを向いていた山田さんの腕を引っ張る。
何故か気まずそうに振り向いた山田さんは、俺を見て目を丸めたあとあの優しい顔で笑った。

「栗島くん可愛い」
「似合ってる?」
「似合ってるよ」

ツンツンと赤い鼻をつついてくる山田さんにもう一度お礼を言えば頭を撫でられた。
そろそろ帰るために制服と鞄を脇に抱えて玄関に向かう。

「山田さん、めりーくりすます!」
「めりーくりすます!、栗島くん」

そして山田さんの部屋を出た栗島トナカイはりんりんりんりん歌いながら碓氷達のいる部屋へと向かった。

(後編に続く)


back|bkm|next

番外編topmaintop


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -