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ほっぺはチェリー色(水神矢)


「...明日は午後練だから泊まりに来ませんか。」

後輩であり、彼氏である水神矢に言われたのはその日の練習が終わってからだった。え、泊まり?まじで? と一瞬空耳を疑って聞き直したけどほっぺ仄かに赤らめて首を縦に振ったので間違いないらしい。

「でも着替えとか持って来てないし...」
「大丈夫です。俺の昔のものがあります。」

流石に急すぎるので最もな理由をつけて断ろうとしたけど即座に返ってきて私は押し黙った。化粧水が無いだの下着が無いだのまだまだ言い返す言葉はあったけど白い肌を更に赤くしてジッと縋るような目で見られたので断りようが無く私はお泊りを了承してしまった。化粧水も下着も帰りコンビニで買っていこう。

星章の生徒は電車通学が多く私と水神矢も共に電車通学だ。水神矢は比較的降りる駅が学校から近いので後に降りる私やサッカー部員たちはいつも水神矢を見送っている。だけど今日は私も一緒に降りたので部員たちにドアが閉まるまでからかわれた。窓越しに全力で睨んだけど全然怖がった様子は無くて何がおかしいのかケタケタと笑っていた。明日しめる、と心に決めて電車を見送ると水神矢と共に改札へ向ってICカードをかざし改札を出る。水神矢宅までの道を他愛ない話を交わしながら二人で歩き途中のコンビニに一人で入る。下着とか買ってるのあんま見られたくないし。水神矢には外で待ってもらって下着以外にも化粧水など必要なものを籠に入れていく。
パンツが最後の一個だったので運良く入手出来たことに安堵しレジに向かうと道中極薄とデカデカ書かれたアレが目に入った。いや、何考えてんだと頭の中で浮かんだいかがわしい妄想を掻き消して会計を済まし私はコンビニを出た。そして水神矢と合流して再び2人で歩き出す。私よりも背も高く脚も長いはずなのに足並みを合わせてくれているのか水神矢が私を追い越すことはない。そしてさり気なく車道側を歩いてくれている。気遣いのできる真横にいる男にキュンとして手をギュッと握ってみるとこっちを向いて驚いた顔をする水神矢。ふわふわとした髪型揺れて石鹸のいい香りが鼻を掠める。初めて繋ぐわけでもないのに初々しい反応を見せる水神矢にニコッと笑って見せるとサッと顔を逸らされた。全く、かわいい男である。

そして暫く歩くと水神矢の家に到着した。お泊りは初めてだけど何度か遊びに来たことがあるのでご両親とは面識がある。いつも良くしてくれるお母様に差し上げようと安くて申し訳ないけどコンビニスイーツも購入したので喜んでくれたら嬉しいなって思って玄関に通してもらったけど家の中はシンとしていた。

「実は2人とも親戚の家に泊りに行っているんでいないんです。」
「へっへえ...」

部屋に明かりを灯しながら言った水神矢に相槌を打ちながらこれはもしかしてそういう展開なのか、と急にドキドキとしてしまう。付き合って早1ヶ月。手は繋いだけどまだキスはほっぺ止まりである。手を繋いだ反応を見ればわかる通り彼はかなりのウブでそんな彼のペースに合わせていた結果である。まだキスもしてない私たちがキスを飛ばして次のステップに進むのだろうか。いや、キス込みで飛んでいくのだろうか。さっきコンビニでみたアレが脳裏に過ぎる。コンビニスイーツよりアレを買うべきだったのではなんて思ったけどアレは男が用意するものだろう、うん、と1人納得した。いや、納得してる場合じゃないんだけど。

悲しいかな思春期真っ只中な私は一度強く意識してしまうとなかなかそれが頭を離れなくて食事中も2人でテレビを観ながら寛いでいる時もそういう展開がくるんじゃないかと1人意識してドキドキしていた。でもテレビを観ながら手を繋いだくらいで所謂ムフフな展開は一向にやって来なかった。いやでも起きるとしたらこれからだろうと先にどうぞと勧められたシャワーで隅々まで入念に洗って入れ替わりにシャワー室に入って行った彼が出てくるのをドライヤーと歯ブラシを済ませて待った。自室で待っていて下さいと言われたので水神矢のベッドに腰を掛け彼を待つ。待っている間スンスンと水神矢に借りたパジャマの匂いを嗅いでみる。昔のものと言っていたから長い期間タンスの中にあったんだろう、特別何か匂いがするという訳じゃ無かったけど水神矢の衣服を身につけているという事実に匂いを嗅ぐたび心がいっぱいになった。


「待たせてすみません。」

暫くすると水神矢が部屋に入ってきた。青と白のストライプの寝巻を纏った彼の姿は当然ながら初めてみる姿で新鮮なその姿に目を奪われているとあんまり見ないで下さい。と照れた様子で言われた。そしてスタスタとこちらへやってくると私の横に腰かけた。ギッとベッドのスプリングの音がしてドキッと心臓が鳴る。ドキドキしながら太ももに置いた自分の手を見つめているとそっと水神矢の手が重なってきて私は反射的に顔を上げて彼の方を見た。水神矢はほっぺを赤くして真剣な面持ちで私の方を見つめている。もしやついにくるか、ムフフな展開がきちゃうか...!ドッドッと加速していく心臓に汗ばむ手。ジッと逸らすことなく水神矢の端正な顔を見つめながら彼の次の行動を待っていると私の手に重なっていない方の手が私のほっぺに添えられた。ついにキスされる...!とそっと目を閉じる。彼の唇はいつ降ってくるのか、緊張しながら数分にも思える時間を待っていると遂に柔らかい感触が降ってきた。......ほっぺたに。

え、この展開でほっぺ??と驚きで開眼すると水神矢は耳まで真っ赤にして視線を逸らし手の甲で口元を覆っていた。目の前の彼の表情に今回のお泊りでこれ以上の展開は無いと悟った私は彼の肩をトンっと叩いて口を開いた。


「寝ようか、水神矢。」
「...はい。」

肩を叩くと弾かれたように顔を上げた彼は私の言葉に少し間は空いたものの素直に頷いた。
このまま水神矢のペースに任せていたらキスするのに100年かかりそうだなんて若干呆れながら部屋の照明を消した彼と共にベッドに横になった。