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もしも王帝月ノ宮に派遣されたらの設定です。脱走する夢主を止める西蔭。フラグぶっ飛ばして西蔭と両片思いになっています。


私は王帝月ノ宮を脱走することにした。理由は私のオアシスであった竹見が脱走したという理由もあるけれど王帝月ノ宮のやり方について行けなくなったからだ。効率よくなんていいながら当たり前のように成されるラフプレーにはもううんざりだしあのアレスの指示を垂れ流すだけの無能アホ監督にもうんざりだ。......と思いながら勢いで荷物を纏めて出てきたけれど頭に彼の姿が浮かんだ。初めて来た日に一緒に歩いたこの道で彼は私のスーツケースを引いてくれた。そして転倒するを防いでくれてくだらない会話にも付き合ってくれた。そう言えば休日欲しさにこの道で鬼ごっこもしたな...。

(もう会うことはないのかな。)

あの私にとって救いであり凶器でもあった逞しい腕の感触を思い出しながら少し寂しい気持ちに.......ってなんでそうなる、なんで寂しいんだ自分!!!!なんで胸がキュってなってるんだ私!!!

「どこに行くんですか。」

芽生えた謎の感情を処理しきれなくて感情がてんてこ舞いになっているとしていると背後から声がした。ちょうど私が今思い浮かべていたその人物声に反射的に振り返るとやっぱりそこには彼がいた。少し息を切らせていて走って来たのかな、と感想を抱いた瞬間にやばい、私逃走の真っ最中だった!と思い出す。

「もう一度聞きます。どこに行くんですか。」
「ちょっとその......えっと.......こっコミケ!?」
「帰りますよ。」

三宅ユカの馬鹿!アホ!マヌケ!なにがコミケだ!もっとマシな嘘あっただろ!!審議の余地なく強制送還が決定なんだけど!!監督以上のアホが監督をアホ呼ばわりするな!と脳内で自分自身を責めていると西蔭がすぐ目の前まで来ていて手を伸ばし私の腕を掴んだ。えっ?と西蔭を見上げると彼の瞳と目が合う。いつになく真剣な眼差しをしたその瞳から目を逸らすことができない。何故かドキドキと高鳴る心臓とじわじわと掴まれた腕から広がる熱を持て余していると西蔭はハッと何かに気付いたような顔をして目を逸らしパッと私の腕を離した。一連の行動の意図が分からなくて西蔭からの言葉を待っていると数秒の沈黙の後西蔭が再び私の方を見て口を開いた。


「...とりあえず、野坂さんに迷惑がかかることはやめて下さい。」

野坂さん、その言葉に急激に上昇していた体温が引いて行くのを感じた。......そりゃあそうだよね。息切らせて走って来たのも私の腕掴んでやけに真剣だったのも全部野坂のためだよね。


「......西蔭はいつもそうだよね。野坂さん野坂さんって、」
「三宅さん?」

全ては野坂のため、そう考えると何故かさっき感じたよりも一層寂しい心持ちになった。寂しい理由は未だ掴めなくてむしろさっきよりごちゃごちゃになって整理ができず気付いたら西蔭に対して口を開いていた。

「追いかけて来たのも全部野坂のためでそこに西蔭の気持ちはないんだよね。」
「...三宅さん、」
「私なんてどうだっていいんでしょ。強化委員なんて名ばかりの外部からきたよそ者のマネージャーなんて。」
「三宅さん、」
「野坂に言われているから逃がさないようにしてるだけで西蔭は私のことなん...」
「三宅さん!」

ガッと西蔭は私の名前を強い声音で呼ぶと私の両肩を掴んだ。その言動によって私の言葉は続くことなく遮られた。唐突な行動に驚き西蔭を見るとさっきと同じように真剣な顔をしていた。

「......行って欲しくないんです。」
「へ...?」
「確かに野坂さんのこともありますが俺はあなたを自分の意思で追いかけて来ました。」
「にっ西蔭の意思で来たってこと...?」
「はい。俺の意思で三宅さんを追いかけて来ました。」

西蔭の発言に体温がまた上昇して行く。見つめあった目には私が映っていてほっぺに熱が集まる。西蔭の意思とは一体どんな意思なのか、疑問に思うけれどそれを訊ねる心の余裕なんてない。


「...離したくないんです。あなたのことを。」

そんな訊ねることのできない疑問の答えは西蔭の口からあっさりと放たれた。離したくない、離したくない、離したくない...西蔭の言葉が脳内で何度もリフレインする。脳味噌のなかで跳ね返ってはヒュンヒュン元気に飛び回る言葉は単純明快なはずなのに理解が追いつかずただただ顔だけが熱くなっていく。

「...行きましょう三宅さん。」
「う..うん......」

もう何も考えることができず私は西蔭の言葉に従って来た道を戻ることにした。私の荷物を持ち私の前を歩く背中は何故か前よりも大きく見えて胸がキュッとなる。何故キュッとしたのかなんてわかるはずもなくただただ西蔭の後に続いて歩いた。


寮に戻った後ご飯を食べて歯磨きをしシャワーを浴びて寝支度を整えた私はクッションを抱いてベッドの上に座り今日一日の理解が追いつかなかった出来事を噛み砕いていた....いや、正しくは噛み砕こうとしていたけどそれは叶わず未だ繰り返される西蔭の言葉を思い出すたび顔をクッションに埋めていた。


「離したくない...」

ぽろっと口に出すと色んな感情がせり上がってきて叫びそうになり一層強くクッションに顔を埋めた。バクバクと西蔭の言葉を思い出すたび忙しなくなる心臓を理解できなくて何かの病気なのではという懸念まで出てきた。


「何バカみたいなことしてるんですか三宅さん。」

動悸息切れ、気付けにきゅー○んきゅ○しんと縁がないと思っていた薬の購入までを視野に入れていると私しか存在しないはずの空間に第三者の声が聞こえてきた。見ずともわかるそいつの正体に顔を埋めたまま「帰れ。」と言うとガチャンとドアの閉まる音が聞こえてスタスタと足音が近づいてきた。「ユーキャンスピークジャパニーズ?」と嫌味として言ってみると「Can youでしょ。」とやたら綺麗な発音で若干呆れたような声で言われた。たしかにそうだ、しっかりしろ受験生と自分に言ってクッションから片目だけ覗かせるとサッカー観戦しているときのように得意げな顔をした野坂がいた。

「どうやら脱走を試みたみたいですね。」
「こっコミケに行こうと...」
「もう少しマシな嘘はつけないんですか。」

ギッとベッドのスプリングが揺らして座った野坂に「ベッドボードに座れば。」というとジトッと睨まれた。いつもスタジアムの背もたれに座ってるくせに...!


「それにしてもびっくりしました。」
「何が。」
「あんな必死な西蔭、今まで見たことないなと思って。」

野坂から発された西蔭という言葉だけで心臓がドキドキするけれど至って平常なふりをして私は「へぇ。」と興味なさげに返事をした。

「窓を見た瞬間僕の制止を聞かずダッシュして何を見たんだと思って窓をみると荷物を抱えたあなたが居たんですから。」
「...さっきから何がいいたいの。脱走者への尋問なら明日にしてくれる。」
「別に尋問していないでしょう。」

野坂は口元に弧を描いて私を見下ろす。どこか楽しんでいるように見えるその顔を睨みつけると野坂は立ち上がった。


「僕はただはやく気付いて欲しいだけです。」
「何に。」
「さて、なんでしょうか。」

こいつおちょくってるな....!とバッと顔を上げてクッションで殴ろうと腕をあげるとその腕をパシッと掴まれた。


「顔、真っ赤ですね。」

まるで僕を見るファンの子達みたいだ。

そういうと野坂は私の腕を離して部屋を出て行った。ポツンと部屋に残った私は結局野坂は何が言いたかったんだと思いながら野坂が最後に残していった言葉の意味を理解することにした。僕にはファンが多いんですよという自意識過剰な自慢発言をわざわざこのタイミングでするはずはないからこの言葉にはきっと何か裏があるはず。
僕を見るファンの子達とはつまり野坂のファンであって、野坂のファンということは野坂をかっこいいと思っている、かっこいいと思っているということは野坂に好意を持っているわけで好意を持っているイコール好きってわけで......え、ちょっと待って........


「す...き....?」


ーーーーーーーーーーーーーー
終わる。